研究課題/領域番号 |
18K01568
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松井 建二 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (20345474)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経営情報 / ディスクロージャー / プロプライエタリ・コスト / 機密コスト |
研究実績の概要 |
本研究課題では、プロプライエタリ・コストが存在する状況において、企業はどのような環境下で内部情報の開示を行うことが望ましいのか、そしてその情報開示はどのような経済的な帰結をもたらすのかを分析し、明らかにすることが大きな目的である。今日では、情報流をともなうサプライチェーンの効率的な管理が学術・実務の双方から重要な話題となっているため、水平的市場構造だけでなく、垂直的市場構造を考慮した企業の情報開示戦略を分析することが本研究課題の特色となる。研究課題の4年目である2021年度は、交付申請書に基づき、数理モデルを作成する研究を継続した。具体的には、上流の製造業者と下流の小売業者の2社から構成される垂直的市場構造を想定し、小売業者が需要に関する情報を得ている状況を考える。そして、上流では既存の製造業者に加えて、代替的な製造業者が参入する可能性を考える。通常の産業組織論のモデルでは、水平的な競争関係が存在する時には、企業は戦略的に参入阻止を行う行動が描写される。これに対し、垂直的に異なる段階において潜在的参入企業が存在するときには、参入阻止ではなく、逆に参入促進を目的として需要情報を開示する動機を下流の小売業者が持つことを示した。これは垂直的市場構造において、ある企業と異なる段階で企業が追加的に参入するならば、その段階は競争的となり、結果として前者は有利な取引条件を得ることができるからである。このために、ベイジアン均衡において参入阻止ではなく参入促進の目的で、小売業者は製造業者に向けて戦略的に情報開示を行うという不完備情報モデルを構築した。このモデルは国際学術誌に受理され、掲載された。また、前年度にモデル化していた、小売業者は製造業者と取引条件となる卸価格をどのような環境下で交渉すれば良いかを明らかにした論文が国際学術誌に受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は「研究実績の概要」に記したとおり、不確実性下における競争環境に直面する企業は、プロプライエタリ・コストの存在を前提とするならば、どのような情報開示行動をとることが望ましいのかを明らかにする、意思決定支援のための数理モデルを作成する研究を継続した。さらにそれらの結果を複数の論文としてまとめ、国際学術誌に受理された。以上の客観的な研究成果から、「(2) おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、これまで国際学術誌への複数の論文掲載をはじめとして、研究計画に沿った研究の進展が見られている。プロプライエタリ・コストの存在下における企業の情報開示行動についての新たな知見を得るために、さらなる数理モデルの構築を継続する。研究から得られる成果はこれまでと同様に、主に英文で論文を執筆し、国際学術誌への投稿・掲載を進め、内外へ向けた研究成果の発信を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は数理モデルを作成する研究を進めたが、次年度が最終年度となるため、その成果を内外に発信する活動のための費用が特に必要となることが予想される。このために次年度使用額を計上している。具体的な使用計画として、国際学術誌へ投稿する際に必要となる英文校正などの費用として使用することを予定している。また、学会や研究会が遠隔地において開催される場合には、執筆した論文をそれらの会合において研究報告するための旅費として使用する。
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