研究課題/領域番号 |
18K01569
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 保 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (00237413)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シェアリングエコノミー / 耐久消費財 / 動学的最適化 |
研究実績の概要 |
De Los Santos.et.al(2018)などを中心に、シェアリングが経済に与える影響に関するこれまでの研究を検討し、マクロ経済モデルを構築する際に必須の構成要素について検討した。その結果、シェアリングエコノミーを分析するためには、家計の選択行動や市場での取引費用の役割を明示的に分析できるモデルが必要であることが分かった。そこで、Becker(1965)、Stigler(1961)やHorton and Zeckhauser(2016)などに依拠しながら、マクロモデルを構築し、取引費用や財の初期賦存量が均衡に与える分析を行い、それらが均衡に対して従来のマクロモデルとは異なる影響を与える可能性があることが分かってきた。しかしながら、結論の頑健性を確認するにはさらなる検討が必要である。 上記のマクロモデルは、所有者ごとに財の種類と量が固定されているという意味で静学的なものある。また、長期均衡も分析しているが、耐久財の購入価格とレンタル価格が一致するという条件を先験的に課している。動学的一般均衡モデルを構築するには、家計の異時点間の最適化行動をモデルに導入する必要がある。そこで、Mankiw(1982)を端緒とする耐久財に関する消費者の効用最大化問題に関する一連の研究を参考に、シェリングが存在する下での異時点間の最適化行動を定式化し分析を始めた。シェリングが存在しなければ、耐久財から得られる限界的便益と、利子率と購入価格から決定される使用者費用が等しくなるところで需要量は決定される。これに対して、シェアリングが存在する下では、市場にアクセスできる確率が使用者費用の一部を構成し、確率の低下が価格の上昇と同じ効果を持つことが分かった。ただし、個別主体の需要の低下がマクロでの需要の低下を意味するかどうかについては、さらなる分析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の出発点となる基礎的な文献の収集及びそれらの検討については、当初立てていた初年度の研究計画より若干ではあるが遅れている。エアビーアンドビー(Airbnb)やウーバー(Uber)のような個別の産業分野については、シェアリングが与える影響に関する実証的研究はかなり進んでいるが、理論的研究、特にマクロ経済に関する理論的分析がまだ少ないこともあり、この分野での基礎となる従来の研究の掘り起こしが必要である。また、シェリングが存在する下での耐久財に関する異時点間の最適化行動の分析については、既存の論文はもとより最新の論文やワーキング・ペーパーの収集を行い、それらに依拠しながらほぼ予定通りにモデル構築及び分析を行うことができた。 本研究の中心である動学的一般均衡理論を用いた分析についても、当初立てた初年度の研究計画よりやや遅れているように思われる。動学的一般均衡の前段階の静学的一般均衡に関しては、従来のモデルを参考にして簡単なモデルを構築し分析することができた。それらを基礎にして今後の研究の核となるようなモデルを2つほど構築して、次年度以降に続く分析を始める準備はほぼできている。具体的には、シェアリングエコノミーにおいて取引費用、生産費用(=売買価格)、市場アクセスの可能性がマクロ経済に与える影響について分析することができた。今後は、耐久消費財の需要に関する消費者の異時点間の最適化行動をこれらのモデルに組み込んで分析を行うことになる。そして、これらの結果を論文にまとめ、次年度以降学会などで成果発表を行う予定である。 これらの研究状況を総合的に勘案し、計画初年度の達成度として「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度以降は、まず前年度に構築した静学的一般均衡のマクロモデルを動学的一般均衡モデルへと拡張し、必要な修正を加えながら、それらを用いてより詳細な分析を行っていく予定である。そのためにまず、(1)消費者の異時点間の最適化行動が動学的一般均衡において果たす役割、(2)市場での取引費用及びシェアリング市場へのアクセスの可能性がマクロの経済変動に及ぼす影響、(3)政府による政策の効果、を分析するために必要なマクロ経済モデルの枠組を明確にして、モデル構築の基礎とする。 次に、上記の検討を踏まえて、今後の研究の中心となるようなモデルを複数構築して、次年度以降に続く分析を始める。具体的には、耐久消費財に関する家計の効用最大化行動をモデルの中に明示的に組み込んで、(1)シェアリングが存在する下で取引費用、市場アクセスの可能性及び財の生産費用(売買価格)が耐久財の使用者費用に与える効果、(2)それらがマクロ経済の変動に与える影響、(3)政府による政策がその変動に及ぼす効果について、可能な限り解析的な分析を行う予定である。その上で、数値計算やシミュレーション分析を行って、頑健でかつ豊かな結論を導出し、それらが持つ経済学的含意について検討していきたい。 上述のような分析や研究交流を通じて得られた結果を論文にまとめ、まずは学内外の研究会やセミナーなどから始め、次いで国内及び海外の学会で発表し、出来るだけ多くの研究者の方々からコメントやアドバイスを頂く予定である。それらを活用して論文を改訂し、平成31年度中には国内あるいは国外の査読学術誌への投稿を始める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「物品費」について、図書や資料などの選定作業が遅れ、平成30年度中に予定通りに購入できなかった。これらについては平成31年度に支出予定である。 「旅費」に関しては、本務校における業務との関係で資料収集のための出張及び(特に海外の)学会出張ができなかった。これらについては平成31年度あるいは令和2年度中に計画的に実施する予定である。 「その他」に関しては、論文の作成が若干遅れてしまい、平成30年度に支出予定であった英文校閲料及び投稿料を次年度以降に支出することとなった。
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