研究課題/領域番号 |
18K01569
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 保 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (00237413)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | シェリングエコノミー / 耐久消費財 / 一般均衡モデル / レンタル市場 |
研究実績の概要 |
初年度と2年目には、先行研究を参考にしてシェアリングの可能性が存在する下での家計の消費行動を定式化した。その結果を踏まえて3年目に、一般均衡の枠組みでシェアリングが果たす役割を分析することを開始した。その過程で、部分均衡ではうまく定式化される各経済主体の行動をそのまま一般均衡に拡張してもモデルがうまく機能しない可能性が見つかり、ミクロの主体均衡の分析を再検討することが必要になった。部分均衡では耐久消費財の価格とレンタル価格の両方が与えられ、耐久消費財の需給は耐久消費財の価格によって、耐久消費財のレンタル量(利用率)はレンタル価格によってそれぞれ決定される。これに対して、一般均衡では、耐久消費財の量と利用率によってレンタル市場で取引されるサービス量が決定されるので、耐久消費財の価格とレンタル価格を別々に決定するメカニズムを組み込まなければならないためである。 そこで先行研究とは異なるアプローチで各経済主体の最適化行動を再定式化し、それらを一般均衡の枠組みに導入して分析することを3年目に始めた。その結果、4年目の昨年度、シェアリングが存在しない経済、シェアリング経済、そして家計間のシェリングではなくて企業によるレンタルだけ存在する経済の3つの比較検討が可能なモデルを構築することができた。そこでの分析によって、シェリングが存在しない場合は、耐久消費財の需給(量)と利用率(質)が独立に決まるのに対して、シェリングが存在する場合は、これらが同時決定されること、つまり相互依存関係が存在することが分かった。また、比較静学分析によって、所得の変化やシェアリング技術の変化が均衡に与える影響についても明らかにした。このモデルを用いて経済政策がそれぞれの経済で持つマクロ経済学的効果の違いを分析して、きるだけ明確な結論を導き出したいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に耐久消費財のレンタルの可能性が存在する下での家計の行動を定式化し、2年目にそれを取り入れた一般均衡モデルを構築して分析し、3年目に動学的一般均衡モデルへと進む予定であった。しかし、一般均衡モデルの分析を行う過程で家計行動の再定式化を行う必要性に迫られ、家計の行動の分析を再度検討することになった。 一般均衡理論を用いた分析については、2年目から2部門モデルが適切であると考え、モデル構築の考え方と方向性を大幅に変更して分析を始めた。通常の2部門モデルとは異なり、耐久消費財の需給(量)と利用率(質)を区別することによって、結果的に耐久財と非耐久財の生産量が内生的に決定されるモデルの方がより適切であると考え、耐久消費財の価格とレンタル価格を別々に決定することが可能な一般均衡の枠組を構築することにした。その結果、シェアリングが存在しない経済、シェアリング経済、そして家計間のシェリングではなくて企業によるレンタルだけ存在する経済の3つの比較検討が可能になった。比較静学分析によって、所得の変化やシェアリング技術の変化が均衡に与える影響について明らかにした。経済政策がそれぞれの経済で持つマクロ経済学的効果の違いについて、できるだけ明確な結論を導き出すために現在分析を進めている。 新型コロナウィルスの感染拡大への対応などによって研究が遅れてしまったことなどもあり、研究内容を学会や研究会で報告し、他の研究者と議論する機会があまり持てなかった。これらの状況を総合的に勘案し、計画4年目の達成度として「やや遅れている」と判断するとともに、研究を継続するために補助事業期間の延長の申請を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
補助事業期間の再度の延長が認められて研究計画の最終年度となった令和4年度は、前年度までに構築したシェアリング市場あるいはレンタル市場の存在を組み込んだ一般均衡モデルを用いて、シェアリングが存在しない経済、シェアリング経済、そして家計間のシェリングではなくて企業によるレンタルだけ存在する経済の3つの経済の特徴や相違をより明確にしていく。その上で、(1)経済政策の効果がこれら3つの経済でどのように異なるのか、(2)シェアリングやレンタルの存在が経済全体の所得(GDP)や経済厚生をどのように変化させるのか、(3)経済厚生の観点から最も望ましい経済は、これら3つの経済の中のどれか、そしてそれが現実に実現するのか、を可能な限り明らかにしていきたい。 現在、いくつかの興味深い結論が得られつつあるが、まだ理論と実証の両面で頑健なものだとは言えない。理論的な分析を深化させるとともに、可能であれば、研究協力者の助けも借りながら、データとの比較研究によって理論の現実妥当性について検討していきたいと考えている。 さらには、これまで構築した一般均衡モデルから導出された結論や現在構築・精緻化を進めているモデルについて、それらが暫定的なものであっても、国内外の研究会や学会等でも発表し、出来るだけ多くの研究者の方々からコメントやアドバイスをもらいながら研究を改善していく予定である。残念ながら、一昨年度は報告を予定していた学会がキャンセルされ、昨年度は研究報告の機会をうまく見つけることができなかったが、今年度はオンラインでの報告なども活用し報告の機会を積極的に見つけていきたい。分析結果を論文に纏め、研究交流などを活用して論文を改訂し、今年度中に国内あるいは国外の査読学術誌へ投稿したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「物品費」については毎年ほぼ予定通りに支出することができたが、「旅費」に関しては、令和元年度および令和2年度に支出できなかった分を令和3年度に一緒に有効に使う予定であったが、コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて全く支出することができなかった。補助事業の期間の再延長が認められたので、コロナウィルスの感染状況を考慮しながら、令和4年度中に計画的に支出する予定である。 「その他」に関しては、論文の作成が遅れているために、令和3年度までに支出予定であった英文校閲料及び投稿料を令和4年度に支出する予定にしている。
|