先見的安定性を考慮した国際環境協定の理論分析

2019 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K01573
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 藤田 敏之 九州大学, 経済学研究院, 教授 (30297618)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 国際環境協定 / 提携形成ゲーム / 先見的安定集合

研究実績の概要

本課題の目的は，世界の国々が国際環境協定を締結する際に先見的である，言い換えれば自分の行動が他国の行動にもたらす影響を長期的に考慮するという仮定のもとで，ただ乗りなどのインセンティブが生じない安定な協定の集合である「先見的安定集合」の性質を明らかにすることである．
今年度は昨年度に引き続き，先行研究の精査を続けるとともに，すべての国が同一であり，各国の汚染削減にともなう費用および便益が削減量に比例する単純なケースでの先見的安定集合について詳細な検討を続け，昨年度に得られた結果を整理して論文の形にした．さらに国の非対称性を考慮し，2種類のタイプの国が複数混在する状況において，やはり各国が近視眼的な予想のみを行うという仮定のもとでの結果と比較してはるかに大きなサイズの協定が先見的安定集合に属することを明らかにした．国際環境協定の研究で国の先見性を考慮したもの自体が非常に少ないが，国の非対称性を扱った理論的研究はひとつもないことから，本研究の貢献は大きいものと思われる．これらの成果は近いうちにディスカッションペーパーとして刊行予定である．
現在構想中の研究内容についても述べておく．これまでの一般的な枠組みでは，ひとたび協定が締結されると，加盟国は協定全体の利得を最大化するような汚染削減を行うという仮定がなされてきたが，現在この仮定を緩和し，比較的小さい削減量を要求するmodestな協定の存在を前提に，協定の安定性を論じる研究がいくつかみられる．このmodestな協定に関する研究に先見的安定性の概念を導入したときに結果がどのような影響を受けるかについて検討を開始している．

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昨年に記した今後の研究計画には，国の非対称性を考慮すること，汚染物質の蓄積など動学的要素を考慮すること，という2つの内容があった．そのうち前者については分析をすすめることに成功した．後者については未だ検討中という段階であるが，さらに他の新しい内容の分析にも着手しているため，全体的におおむね順調に進展していると判断される．

今後の研究の推進方策

最終年度は，「研究実績の概要」に記したmodestな協定に関する分析をすすめるとともに，これまでの成果を学術雑誌に投稿し，出版を目指す．