本課題の目的は,世界の国々が国際環境協定を締結する際に先見的である,言い換えれば自分の行動が他国の行動にもたらす影響を長期的に考慮するという仮定のもとで,ただ乗りなどのインセンティブが生じない安定な協定の集合である「先見的安定集合」の性質を明らかにすることである. 今年度も,時間的要素を入れた国際協定の動学ゲームモデルの分析というテーマの検討を継続し,繰り返しゲームの理論における弱耐再交渉均衡という解概念を用いた分析を行った.具体的には,すべての国は自分から協定で定められる協調的な汚染削減をするという行動から逸脱せず,ある国が逸脱した場合に,次の期に削減を停止するという罰則を与え,逸脱国が協調行動に戻れば,罰則を解除するというルールを採用する.このルールにしたがう戦略が部分ゲーム完全均衡になり,さらにルールの見直しを途中で行う再交渉に対するインセンティブが存在しない場合,弱耐再交渉均衡であるという.すべての国が均衡となる行動をとれば,協定の内容が遵守されることになる.モデルでは,プレイヤーとして先進国,新興国を混在させ,弱耐再交渉均衡の存在条件をさまざまな仮定の下で求めており,2024年度に学会発表という形で公表する予定である. 研究期間を通じて,コロナ禍にくわえ,令和3年以降の研究代表者の体調不良をはじめとしたプライベートな事情により,研究の執行が予定通り進まなかった.しかしある程度の研究の土台は築けたので,研究期間終了後も継続していく予定である.
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