本研究では、寡占の一般均衡理論を貿易と環境の問題に応用し、「多数の産業で国際的な寡占競争が繰り広げられているとき、環境政策の強化や貿易の自由化は、国内外の賃金水準や雇用にいかなる影響を及ぼすのか。そして、この影響は経済活動や環境問題にどのように波及するのか。」を分析する。具体的には、「寡占競争モードの内生的決定を含む統一的なモデルを構築し、競争モードの変化に応じて総排出量や最適な環境政策の水準がどのように推移していくのか、また、貿易自由化はこの経済と環境にいかなる影響を及ぼすのかを明らかにする」ことを目的としている。
令和4年度は、令和3年度に公表した本研究課題の基礎となる論文「寡占の一般均衡における貿易自由化と環境の分析」(『福井県立大学経済経営研究』 第44号)のモデルを基礎として、本研究課題の主要な目的を達成するためのモデルに応用可能かどうかを検証した。また、本研究課題の主要な目的を明らかにするための前段階として、労働市場における賃金水準の内生的な決定と企業の排出削減投資の関係を考察するモデルを構築した。
令和5年度は、令和4年度に構築したモデルの計算を進めると共に、このモデルに水平的な製品差別化を考慮して、クールノー数量競争とベルトラン価格競争における環境政策と排出削減投資の関係を比較検討した。内生的な賃金水準への影響を踏まえて、総排出量への影響を比較する段階までは進むことができた。しかしながら、最適な環境政策の水準やそれを踏まえた排出削減投資水準の導出には至っておらず、論文として成果を報告するには十分とは言えない状況で令和5年度を終えることとなってしまった。
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