研究課題/領域番号 |
18K01584
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
手塚 広一郎 日本大学, 経済学部, 教授 (90323914)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 港湾間競争 / 海上輸送市場 / 運賃と用船料 / 派生的需要 / 容量制約 / レベニュー債 / 市場成果 / 不確実性 |
研究実績の概要 |
本研究は,港湾および海運のコンテナ輸送市場を対象として,その市場構造,市場行動,および市場成果を分析するものである.より具体的には,コンテナ港湾間の競争や海運のコンテナ輸送における競争を,「容量制約がない規模の経済性の下での競争」と位置づけた上で,これらの競争の帰結をモデルによって表現し,現状と照らして定量的・定性的双方の見地から,市場成果の評価を試みるものである.本研究は3年間にわたって実施するものであり,2年目となる2019年度の実績は次の通りである. 第1に,これまでの実績をもとに,ゲーム理論に基づいた海上輸送市場の競争モデルの拡張とそれに伴う実証分析を進めた.具体的には,運賃価格を決定する要因が何かについて,本源的需要であるところの穀物や天然資源の市場データを収集・加工した上で,派生的需要であるところの海運の用船料との関係などについて分析・検討した. 第2に,港湾間競争に関連して,アメリカのワシントン州シアトルにて実地調査を行った.具体的には,ワシントン州におけるシアトル港とタゴマ港の共同運営のケースに着目し,それぞれのポートオーソリティなどに出向き,アメリカ西海岸における港湾間競争の現状を把握するとともに,港湾間の協調行動についても検証をした. 第3に,港湾のようなインフラの運営に関連して,レベニュー債の導入可能性についても検討を進めた.レベニュー債は,公的なインフラの整備に対して,地方自治体が債券を事業別に発行するものであり,インフラから得られる収入を原資とするものである.コンテナ港湾の整備に際してのレベニュー債の活用可能性を検討することによって,インフラ間の競争のあり方を資金調達の観点からも検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,本研究の中間の年度であり,初年次からの内容を引き継ぐ形で,以下のことを実施した.それは,①国際コンテナ輸送市場と港湾間競争の分析の前提となるような,資料・データの収集,事例研究,および先行研究のサーベイ,②理論モデルの構築および既存のモデルの拡張.③集められたデータをもとにした実証分析や数値計算を実施の3点である, まず,①に関連して,港湾に関しては,今年度に行った中心的なこととして,ワシントン州シアトルでの港湾間競争および港湾の共同運営の事例調査を実施したことがあげられる.この調査によって得られた成果の一部は,内容を取りまとめた上で関連する学会誌に投稿する.海運に関しては,本源的需要の市場にかかるデータの収集および加工も進めている.次に,②の理論モデルの構築に関して,港湾(空港)間競争下でのインフラ整備に対するレベニュー債の導入可能性を理論的に分析した.その際,非協力ゲームの枠組みを用いてモデルの構築をしている.この成果の一部は,国際コンファレンスにて報告した.この分析に並行して,上海海事大学のGang Dong氏らとともに,港湾間競争の非協力ゲームを用いたモデル化も進めている.最後に,③で示した実証分析に関しては,①で集計・加工したデータをもとに,海運市場と他の市場との間の関連性などの分析を進めている. なお,2019年度については,研究が滞るような事象は発生していない.したがって,2019年度の研究は「おおむね順調に進展している」といえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間にわたって実施されるものであり,最終年度である2020年度はその成果の公表に重点を置くこととする. 第1に,資料・データの収集,事例研究に関連して,2019年度で実施したアメリカ・ワシントン州の港湾間の共同運営の事例については,内容を取りまとめた上で,関連する学会誌等に投稿する.第2に,モデルの構築については,国際コンテナ港湾における港湾間競争および海運市場の競争と市場間の関係などについて,引き続き研究を進め,その成果を公表する.とりわけ,港湾間競争については,上海海事大学のGang Dong氏や浙江大学のPaul T-W Lee氏らとのオンラインを活用した形で国際的な共同研究も進める.その際,これまでも共同で研究を実施している石井昌宏氏(上智大学)や石坂元一氏(中央大学)などの研究者からも協力を得て研究を進める.第3に,実証分析や数値計算に関しては,特に海運市場を対象として,入手したデータをもとにして,適宜,分析を進めて,これを公表していく. ただし,成果の公表に関しては,2020年の新型コロナウイルス感染症の影響によって,報告予定であった国内外の学会の開催中止やオンラインによる開催への変更など,当初想定されていなかった事態が生じている.したがって,報告による成果の公表を進めると同時に,国内外での学会誌・専門誌での投稿を進め,成果の公表が滞ることがないように十分に配慮する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該金額は,物品等購入の残額である.これは2,989円という予算全体から見て,きわめて小規模な金額であり,次年度において,物品等の購入等に充当することによって,これを使用する予定である.
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