研究課題/領域番号 |
18K01587
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
山村 能郎 明治大学, グローバル・ビジネス研究科, 専任教授 (60284353)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リアルオプション / 不動産開発投資 / ビジネスサイクル |
研究実績の概要 |
Dixit & Pindyck(1994)以降、投資問題におけるリアルオプションを適用した研究は様々な分野で広がっており、不動産投資・開発の分野でも研究が進められている。不動産開発の最適タイミングに関するリアルオプション分析は、複占モデルによって先導者と追従者の行動を記述した先行研究では、不確実性の存在が,開発時点を遅らせる一方で,先導者利益の獲得を目的に競争が開発を早める効果が存在することを明らかにしている。また、情報格差が大きい場合、投資を早める効果の存在が指摘されていた。一方、現実の不動産市場では、競争的でプレーヤーが多数存在するような開発ケースの方がより一般的であるため、先行研究を発展させ、複数プレーヤーによる寡占モデルを適用して不動産開発競争を取り扱うことを本研究の目的としている。 2018年度は既存研究での複占競争モデルを発展させ、不動産開発に伴う収益と費用が幾何ブラウン運動に従うことを前提としたモデルを構築し、各主体の直面する需要と投資費用に情報の非対称性、競争格差が存在する場合、複占モデルにおける先導者の投資時点にどのような影響を与えるかについて理論的な考察を行っている。収益と費用の動的構造を同時に確率過程に従うリアルオプションモデルを構築し、従来のモデルと比較している。収益と費用の動的構造を確率過程に従う変数として定義しても、収益・費用比率によって変動を一元化することによって従来のモデルと同様の分析が可能であることを示している。また、構築したモデルによって情報格差が大きい場合、開発を早まることがビジネスサイクルの発生に影響していることを明らかにしている。今後、情報の非対称性および様々な確率過程を前提とした分析によってモデルを一般化すると共に、数値シミュレーションによって不動産市場におけるビジネスサイクルについて議論を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究を発展させ、不動産開発の収益と費用が幾何ブラウン運動に従うリアルオプションモデルを構築し、複占市場における不動産開発の最適投資時点問題について考察した。不確実性の存在が,開発時点を遅らせる一方で、先導者利益の獲得を目的に競争が開発を早める効果が存在することを明らかにしている。また、先制的な開発を行うリーダーを前提にフォロワーにとって最適戦略となる相対価格の臨界値であるトリガー価格を明らかにした。市場の不確実性が大きくなるとフォロワーにとっては待機オプションの価値が高まる一方、不動産賃貸料、開発費用の相関が高くなると開発を早める効果があることを示している。 2018年度は、複占市場におけるオプションゲームにおけるリーダーとフォロワーの行動を記述し、均衡における特性について論じており、従来の研究を発展させた本研究の基礎となるリアルオプションモデル開発はほぼ予定通り進んでいる。以上から本年度の目的はほぼ達成されていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2018年度構築したモデルをベースとして、まず、リーダーとフォロワーの最適開発時点間の差異がどのような理由で拡大・縮小するかをいくつかのシミュレーションによって検討する。需要(収益)および費用の不確実性の増大が各時点の時間差にどのような影響を与えるのかを分析することで市場の過熱、開発ブームが生じる構造を明らかにする。 加えて、ベースモデルをマルチプレーヤーモデルなどに拡張するとともに情報格差が、投資タイミングに如何なる影響を受けるかを検証する。また、収益や費用構造についても様々な確率過程に従う変数として取り扱うことにより、より一般化したモデルを構築する。分析においては数値解析等によって開発タイミングへの影響を分析することが必要となるため、大都市部におけるオフィス開発・投資ショッピングセンター開発などを念頭にパラメータ設定のための不動産事業者、関連団体等へのヒヤリング調査や(財)日本不動産研究所の賃料価格指数や不動産証券化協会等で公表されているJ-REITの取得物件情報などからパラメータ数値の妥当性について検討する。一連の作業を通して、不動産開発のトリガーとなるパラメータ条件を明らかにし、どのようなメカニズムで不動産ブーム・リセッションが発生するかを考察する。 また、政策シミュレーションについても検討したいと考えている。固定資産税などの不動産保有税および開発規制等の政策変数をモデルに外生変数として取り入れたシミュレーションを行うことを予定している。不動産保有税は所有コストを引き上げることから不動産収益を減少させるが、従来の不確実性のない状況下での議論では市場価格に対して中立的であるとの結論が支配的である。シミュレーションによって政策変数の影響が開発時点に与える影響を定量的に把握する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生したのは、当初計画で予算計上していた計算用のPCとソフトウェアを購入しなかったことと調査のために予定していた出張を次年度に変更したためである。計算用PCについては2018年度の計算量が当初予定よりも小規模であったため、従前より使用していた大学所有PCによってシミュレーションを実施した。また、ソフト購入を取りやめた理由は,研究者が所属する研究機関が購入予定のソフトウェア販売元とライセンス契約を結び、費用負担なく利用可能となったためである。 次年度に繰り越した研究費については、今後予定しているより複雑な計算を実施するためのPC購入、研究資料(図書)等 の物品費、専門家等との意見交換および成果報告のための調査研究旅費、データ分析等にかかる謝金などに使用する予定である。2019年度の直接研究費使用計画は、 物品費 50万円/ 調査旅費学会研究会参加旅費 90万円/ 謝金 20万円/ その他 20万円を予定している。
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