研究課題/領域番号 |
18K01587
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
山村 能郎 明治大学, グローバル・ビジネス研究科, 専任教授 (60284353)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 不動産市場 / ビジネスサイクル / リアルオプションモデル |
研究実績の概要 |
2018年度は既存研究での複占競争モデルを発展させ、不動産開発に伴う収益と費用が幾何ブラウン運動に従うことを前提としたモデルを構築し、各主体の直面 する需要と投資費用に情報の非対称性、競争格差が存在する場合、複占モデルにおける先導者の投資時点にどのような影響を与えるかについて理論的な考察を 行った。収益と費用の動的構造を同時に確率過程に従うリアルオプションモデルを構築し、従来のモデルと比較している。 2019年度はモデルを発展させ、収益と費用の動的構造を同時に確率過程に従うリアルオプションモデルを構築し、従来のモデルと比較している。収益と費用の動的構造を確率過程 に従う変数として定義しても、収益・費用比率によって変動を一元化することによって従来のモデルと同様の分析が可能であることを示している。また、複占モデルにおいてリーダーとフォロワーの情報格差が大きい場合、開発速度にどのような影響が生じているかを定量的に分析し、フォロワーがリーダーとして行動変容する閾値を定量的に示している。加えて、シミュレーションを精緻化するために大都市部におけるオフィス開発・投資ショッピングセンター開発などを念頭にパラメータ設定のための不動産事業者、関連団体等へのヒヤリング調査や(財)日本不動産研究所の賃料価格指数や不動産証券化協会等で公表されているJ-REITの取得物件情報などからパラメータ数値の妥当性についても検討している。今後、情報の非対称性および 様々な確率過程を前提とした分析によってモデルを一般化すると共に、数値シミュレーションを拡張し、内生的なビジネスサイクルの発生メカニズムについて研究を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、先行研究を発展させ、不動産開発の収益と費用が幾何ブラウン運動に従うリアルオプションモデルを精緻化を試みており、複占市場における不動産開発の最適投資時点についてシミュレーション分析を行っている。前年度は、不確実性の存在が,開発時点を遅らせる一方で、開発におけるフォロワーが先制的な開発を行うリーダーに行動変容することが最適戦略となる閾値とその傾向をシミュレーションで明らかにしている。市場の不確実性が大きくな るとフォロワーにとっては待機オプションの価値が高まる一方、不動産賃貸料、開発費用の相関が高くなると開発を早める効果があることをこれまでの分析で示しているが、2019年度は数値解析等によって開発タイミングへの影響を分析することを目的として、不動産デヴェロッパー、関連団体等へのヒヤリング調査、ならびに既公表の不動産賃料データ、J-REITの取得物件情報などからシミュレーションパラメータについての統計的推定を行い、パラメータ数値の妥当性について検証している。その結果として、不動産開発事業者の最適行動戦略における行動変容の閾値を定量的に把握している。以上から本年度の目的はほぼ達成されていると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
現実の不動産市場では、競争的で参入主体が多数存在するような開発ケースの方がより一般的であるため、今後は、本研究の不動産開発モデルを発展させ、外部性を考慮した複数プレーヤーの存在する寡占モデルを構築する。加えて、2019年度と同様にシミュレーションパラメータの推定を、既存統計やヒヤリング調査の結果に基づいて実施し、パラメータの妥当性を統計的に検証した上で、シミュレーションを実施する。また、固定資産税などの不動産保有税および開発規制等の政策変数をモデルに外生変数として取り入れた政策シミュレーションも行う。不動産保有税は所有コストを引き上げることから不動産収益を減少させるが、従来の不確実性のない状況下での議論では市場価格に対して中立的であるとの結論が支配的である。シミュレーションによって政策変数の影響が開発時点に与える影響を定量的に把握する。また、政策変更に伴う影響を分析するために複数の政策シナリオを作成し、政策変数の変化に伴うシミュレーションを実施し、不動産市場のサイクルにどのような影響を与えるか定量的に把握する。以上の研究成果について、日本不動産学会およびアメリカ不動産学会等の関連学会において適宜、報告を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生したのは、当初計画で予算計上していたソフトウェアを購入しなかったことと調査のために予定していた出張を次年度に変更したためである。次年度に繰り越した研究費については、今後予定しているより複雑な計算を実施するためのPC購入、研究資料(図書)等の物品費、専門家等との意見交換およびシミュレーションのためのデータ整備・統計解析のための謝金などに使用する予定である。2019年度の直接研究費使用計画は、 物品費 50万円/PC購入費80万円/ 謝金20万円/ その他30万円を予定している。
|