本研究は、子どもの貧困と健康格差の関連性を検証するとともに、所得制限ターゲティングの是非を検討した。日本の子ども医療費助成制度と子どもの健康に関する都道府県レベルの分析では、日本での子どもの医療費助成制度及び医療利用頻度(健康)には明白な関連は見られなかった。保育料助成制度に関しては、各自治体で異なる制度が存在するが、医療利用頻度に関するデータアクセスがなかった点と、待機児童の現状を鑑みると、本制度に焦点を当てることが適当ではなかった可能性もあった。フランスのコホートデータ研究では、世帯所得と子どもの身体的・精神的健康の関連性を検証し、低所得世帯であるほど子どもの情緒不安定・注意欠陥多動症などの精神的健康が害される傾向が高くなり、また、子どもの身体的健康では子どものアトピー性疾患(喘息のみ)を患う傾向が見られた。また、幼少期の喘息がその後の精神的不健康につながる可能性が見られた。これらの結果は他国のデータを使用した既存研究の結果とも合致した。フランスのコホートケースからは、子どもの貧困と健康格差の関連性が裏付けられ、特に低所得世帯を対象とした幼少期の喘息疾患ターゲティング政策により、当該児の将来の精神的不健康につながる可能性を低減させる可能性が示唆された。一般的な社会保険医療施策に関する所得ターゲティングの是非ではなく、実際に疾患を有する低所得世帯の子どもの世帯に対し、所得を改善するような施策は、子どもの将来の精神的疾患可能性を低減する上でも、社会経済便益の面からも望ましいとの知見が得られた。
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