本研究は、日本の地域に根差す知識基盤の構造と機能を、事業所レベルの個票データを活用して定量的に分析することを目的とする。 日本の基幹産業であり特徴的な集積形態が見られる自動車産業を分析対象とし、公刊データをもとに主要自動車部品に関する部品サプライヤの製品構成に関する情報を整備した。各自動車部品をネットワークのノードとし、技術的に類似する部品間をリンクで結ぶ製品空間(≒知識基盤)を可視化して表現するとともに、各部品に要する知識の洗練性(いかに多様でかつ稀少な知識を要するのか)を複雑性指標として計測した。製品空間の構造と各部品の洗練性との関連を、複雑ネットワーク分析の各種指標と複雑性指標を用いて探索的に検証したうえで、洗練された知識を要する新たな部品の市場への出現(≒イノベーション)と既存の知識基盤との関連を計量経済学的に分析した。 また、自動車部品サプライヤが有する知識特性と、産業集積との関連について地理的な空間分析を行った。各サプライヤの部品構成を整理したデータベースに、それぞれの部品が生産される工場の住所情報を接続することにより、部品の知識洗練性と、当該部品が生産される工場立地点や集積との関連について空間分析が可能となった。 研究最終年度には、自動車部品に要する知識の類似性や複雑性が自動車産業の組織構造(内製、系列取引、市場取引)に及ぼす影響を計量経済学的に分析した。さらに国際地域(欧州,日本,米州,中国,ASEAN・インド)における自動車部品サプライヤの製品構成に関する情報を整備し、上記と同様の分析手法により各地域における自動車産業の知識基盤とその洗練性について国際比較分析を行った。今後は国際地域において知識基盤の構造とイノベーションとの関連について分析を進める予定である。
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