研究実績の概要 |
令和元年度は、中間財貿易費用(以下、貿易費用)が産業立地と経済厚生に与える効果を南北貿易の文脈において考察した。当該年度の主な研究成果はKurata et al. (2020)*として公刊されている。同論文では、複数の最終財と各最終財に特殊的な中間財の存在を仮定して分析を行っている。この分析により、産業立地に関して次の二つの結果が得られた。(1)貿易費用が一定の水準を下回ると、広範囲の産業においてオフショアリングと呼ばれる南北間の垂直分業が発生し、(2)貿易費用の低下がさらに続くと、相対生産性の高い部門から順に中間財生産の先進国回帰、すなわち、リショアリングが生じる。経済厚生に関しては、貿易費用の低下と産業立地の変化による各国への影響は必ずしも単調ではなく、南北間で対照的になる可能性がある。途上国の経済厚生は、オフショアリングにより大きく上昇し、その後、中間財生産のリショアリングとともに低下する可能性があるが、垂直分業の前より低下することはない。一方、先進国の経済厚生は、オフショアリングとともに大きく低下するが、その後、リショアリングとともに改善し、最終的に垂直分業の前よりも高くなる可能性がある。以上の分析では寡占市場は想定されていないが、寡占市場型の上流部門を想定した場合にも同様の産業立地の変化が生じると考えられるため、上記の分析は本研究課題の予備的分析の一つに位置づけられる。 *Kurata, H., Nomura, R., & Suga, N. (2020). Vertical Specialization in North-South trade: Industrial relocation, wage and welfare. Review of International Economics, 28 (1), 119-137.
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