研究課題/領域番号 |
18K01602
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋藤 久光 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (30540984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多国籍企業 / スピルオーバー |
研究実績の概要 |
本研究では,多国籍企業の参入が受入国の地場企業の経営にどのような影響を及ぼすのか,地場企業の生産面に焦点を当て分析する.令和元年度は前年度に引き続き,実証分析に必要なデータを整理し,モデルの推定を行った. 多国籍企業から地場企業への技術のスピルオーバー効果を推定した既存研究は数多いが,スピルオーバーが地場企業の生産する財の品質に与える影響についてはほとんど知られていない.発展途上国が中所得国の罠を回避し,さらなる経済成長を実現するためにも,高品質な財を生産する技術を持つ多国籍企業からそのノウハウをスピルオーバーという形で吸収することが有効である. 経済学的には財の品質は消費者の選好を通してその需要に影響を与えるものと定義される.財の品質が改善するとともにその財への需要も増える.したがって,個々の財の価格と需要量をもとにその財の品質を推定することできる.本研究では,まずインドネシアの工業統計表個票データと財レベルのデータを組み合わせることで,各企業が生産する財の生産量と価格を求め,その品質を推定する.得られた品質と各企業が立地している地域への多国籍企業の参入数を定量的に比較することで,多国籍企業から地場企業への品質のスピルオーバー効果を推定する. 予備的な分析の結果,多国籍企業の参入と地場企業の生産する財の品質の間には正の関係が見られた.すなわち,政府は多国籍企業を誘致することで地場企業が生産する財の品質を改善することができる.しかし,分析では内生性の問題に対応しておらず,品質の高い財を生産する技術を持った地場企業が,さらなる品質改善を目的に,多国籍企業の参入が多い地域に立地しようとする可能性も否定できない.多国籍企業の誘致政策の有効性を正確に評価するためにも,内生性の問題に対応した上で,品質のスピルオーバー効果を推定することが今後の課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多国籍企業の地場企業の経営への影響について,既存研究では,スピルオーバーによる生産性向上効果に注目した分析がほとんどであった.一方,本研究では,賃金上昇により労働集約的な生産の優位性が失われつつある中所得国の企業を対象に,高い付加価値が見込める高品質な財の生産への移行をいかに促すのか,そのために必要な政策について考察することを目的としている. 令和元年度に行った研究では,多国籍企業から地場企業への品質のスピルオーバー効果を分析し,正のスピルオーバー効果を確認した.この結果は,政府が多国籍企業を誘致することで地場企業が生産する財の品質が改善されることを意味しており,地場企業が高品質な財の生産へと移行する上での重要な政策提言である.
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度に行われた多国籍企業の参入と地場企業への品質のスピルオーバー効果に関する実証分析では,地場企業が生産している財の品質改善を促すにあたって重要な知見が得られた.ただし,そこでは内生性の問題への対応が課題として残された.令和2年度は,内生性の問題に対応し,正確な品質のスピルオーバー効果を推定する.その上で,これまでの研究成果をまとめ,中所得国の地場企業が,未熟練労働集約的な生産から高い付加価値が見込める高品質な財の生産へと移行する上で有効な政策を提言する.
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