本研究の目的は,多国籍企業の参入が受入国の地場企業の経営にどのような影響を及ぼすのか,地場企業の生産面に焦点を当てた分析を行うことである.多国籍企業から地場企業へのスピルオーバー効果について,生産性への影響を評価した研究は数多いものの,地場企業が生産する財の品質への影響についてはほとんど知られていない.令和2年度は,前年度に引き続き,インドネシアの工業統計表個票データをもとに実証分析を行った. 実証分析で主に考慮したのは次の二点である.まず,多国籍企業の参入が地場企業の生産する財の品質にどのように影響するのか,その経路を明示的に考慮したモデルを推定した.その際,品質の高い財を生産する技術を持っている地場企業が,さらなる品質改善を目的に,多国籍企業が多数参入する地域に立地しようとする逆の因果関係が働くことを想定し,そうした内生性の問題に対応した推定方法を採用した. 分析の結果,下流部門への多国籍企業の参入は,地場企業が生産する財の品質を高める効果を持つことが明らかになった.また,生産性の高い地場企業ほど,品質の高い財を生産する傾向にあることが示された.したがって,多国籍企業の参入は,品質の高い財を生産するために必要なノウハウを地場企業に移転するだけでなく,地場企業の生産性を高めることで間接的にも財の品質改善につながることが分かった.特に,こうした傾向は輸出企業で顕著であることから,発展途上国の企業が海外市場で成功するためには,多国籍企業を誘致することが有効である.
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