研究課題/領域番号 |
18K01603
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高木 真吾 北海道大学, 経済学研究院, 教授 (10326283)
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研究分担者 |
高良 佑樹 千葉経済大学, 経済学部, 講師 (90835860)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パネルデータ / EMアルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究では,電力の小売り入札のパネルデータを用いて,競争を通じた小売自由化による落札単価へ与える効果を分析した.既存の電力会社とその他の小売販売を行う会社間の競合として小売り入札をモデル化し,価格に与える影響,さらに新規参入を促すための優遇処置を実践した場合の反実仮想的な定量実験を行った.もちろん競争効果として落札価格を引き下げは観測できる.ただしさらなる価格引き下げを狙った過度な競争促進のための優遇処置は,非効率な入札結果を生み,かえって落札単価を引き上げてしまう.2~3%程度の優遇率(優遇率に応じて参入者の入札額を割り引いて入札結果を評価する)ならば,非効率な入札結果の発生確率を抑制しつつ,競争による価格引き下げ効果を期待できることが新たな知見として得られた. パネルデータを用いた研究として,固定効果の情報を抽出する研究にも取り組んだ.国際学会で報告を行った二本の論文において,一方では貿易関係に交差固定効果モデルを適用し,貿易関係国間における観測不可能な要因が音楽製品の貿易に影響を与えていることを確認し,得られた固定効果推定値の解釈から「文化関係要因」と呼ぶべきものが与えている影響を確認した.他方の論文では,交差固定効果が従属変数に与える影響を,その水準によって複数のグループへ内生的に分類するアルゴリズムを提案し,その手法を音楽の貿易に適用した.交差固定効果はある国の輸出者としての固定効果と輸入者としての固定効果と解釈でき,固定効果をグループ化することで輸入者としての貿易量への影響の与え方および輸入者としての影響の与え方を識別可能とし,推定結果の解釈を明瞭に行うことが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電力卸売市場の混乱などの社会情勢によって,小売市場が低迷しており,小売市場の自由化に関する直近のデータを分析し続けることは難しいが,直近のデータと従来のデータを比較することで新たな分析テーマが提示されていると考える.従来のデータのみを用いた分析は学術雑誌に投稿し,改定を重ねている.また,交差固定効果モデルを音楽貿易に適用した分析については,学術雑誌から好意的な改訂を求められており,公刊可能と考えている.他に作成し,学会報告を行った二本の論文についても今後修正を行い学術雑誌への投稿を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
電力小売市場は近年一段と低迷しているが,卸売市場の流動性が低く,小売価格の変動が大きい状況下での競争促進と安定供給のあり方に対する定量的証拠を提供することは喫球の課題ということができる. パネルデータを用いた固定効果は通常観測されない異質性を制御するための道具と考えられているが,この推定値そのものが豊かな情報を持っていることを本研究で行った音楽財貿易の実証研究で確認した.二項選択モデル・標本選別モデルなどの非線形モデルへEMアルゴリズムを利用して,交差固定効果モデルを含む場合の推定を実行する点については本研究でも示したが,その推定手法に関する統計理論的側面についても考察を深める必要がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型感染症の流行により予定していた研究会報告や学会報告をおこなうことが不可能になったため,予定していた旅費を支出できなかった.今年度はオンライン学会への参加と電力小売市場のさらなるデータ収集のための短期支援を依頼することで未使用分を支出する予定である.
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