今年度は引き続き非線形パネルデータの分析手法を応用した共同研究 "Unobserved Cultural Relations and Cultural Goods Trade: Empirical Approaches to Cultural Studies" の改訂を行い,と投稿先のJournal of Cultural Economicsから条件付採択の判定の下で最終改訂を行う指示を受けた. この研究では加法的・交差固定効果を持つ標本選別モデルをEMアルゴリズムを用いて推定する方法について提案し,多くの未取引状態を含む文化財(コンパクトディスク)の貿易に適用した.推定結果から,通常の貿易モデル(重力モデル)に含まれる変数の効果に加えて,加法的固定効果が取引当事国の特性を捉えており,交差固定効果が取引当事国間の関係を捉えていると解釈される事実も指摘した. この研究で用いた分析手法は,標本選別モデルのみならず,スイッチング回帰モデルなどへも応用可能であり,近年利用されることの多い同モデルによる政策評価の枠組みへの親和性も高いという発展可能性も持っている.政策評価分析の文脈で用いられるパネルデータの多くは時間方向へのサンプルサイズが大きくないという特徴を持っており,係数推定量および政策効果に関係するパラメータ推定量にバイアスが出る点が指摘されているいるが,これまでの研究代表者の研究で蓄積してきたパネルデータモデルにおけるバイアス修正の方法により,標本サイズにまつわるバイアスは軽減可能である. なお,冒頭に言及した論文は現在,最終的な改訂を行い採択に向けて再投稿の準備を進めている.
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