研究課題/領域番号 |
18K01605
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
塩路 悦朗 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50301180)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非伝統的金融政策 / 日本国債 / コロナ / 日本銀行 / 実証分析 / 国債先物オプション / 財政赤字 / 金融危機 |
研究実績の概要 |
2021年度中は査読付き国際的学術誌に1本の論文が採択・公刊された。査読なしの英文学術誌に1本の論文を公刊した。国際学会で1回、国内の研究会で1回の報告を行い、国内のシンポジウムで1回の基調講演を行った。また、一般向け和文定期刊行物上の連載で研究成果を報告した。主な実績は3つに区分される。 第1に、国債先物オプション市場の研究をさらに進めた。データセットのアップデートを行い、分析対象をコロナ禍初期から直近までの市場動向にまで拡張した。これまでは同オプションの価格に焦点を置いてきたが、分析の視野を取引量に広げた。研究成果の一端を論文にまとめ、財務省財務総合政策研究所発行の英文学術誌Public Policy Reviewから公刊した。また2021年度の新たな研究成果をComputational and Financial Econometrics (CFE)年次大会(ハイブリッド開催)でオンライン報告した。さらにこれまでの研究成果とそこから得られる政策含意を中心に、一橋大学主催の「政策フォーラム」で基調講演(オンライン同時配信)を行い、視聴した多くの政策担当者をはじめ広く一般に研究成果を還元した。 第2に、原油供給ショックが国内ガソリン価格に与える影響を日次及び週次データを用いて分析する研究を続行した。データセットを継続的に更新するとともに、都道府県ごとの価格動向への影響などについても分析した。三菱経済研究所発行の『経済の進路』中のコラム「千思万考」において6回にわたる連載記事を執筆し、研究成果の一端を社会還元した。 第3に、新型コロナウィルス感染症のような感染症と経済活動の間のトレードオフを分析した論文(深尾光洋氏との共著)を査読付き国際的英文学術誌Asian Economic Policy Review誌から刊行した。同論文を国内の有力研究者が集う研究会でオンライン報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の制約を受けつつも研究を精力的に進めた。データセットの更新を継続的に行い、分析対象期間を直近まで延長することに努めた。国債先物オプション市場の研究においては取引量動向の分析を新たな柱としてこれに本格的に取り組むなど、研究の視野が広がった。その結果として論文2本を公刊(うち1本は査読付き国際的学術誌に掲載)できた。また2021年度は研究成果の社会還元に積極的に取り組んだ。一橋大学主催「政策フォーラム」では基調講演を行った。政策担当者を中心に125名のオンライン視聴者があり、終了後も大きな反響が寄せられた。その概要は日本経済新聞上に広告記事として掲載され、研究成果を広く周知することができた。また、一般向け刊行物(三菱経済研究所『経済の進路』)への連載を通じて、原油価格が国内ガソリン価格に与える影響に関するこれまでの研究成果を広く還元した。 その一方で、コンファレンス等での研究報告活動は引き続き制約された。世界的には、2021年度中は、対面式の学会が徐々に復活した。しかし日本では国外への往復に引き続き制約が加わったため、かえって参加は困難になった。また主流となったハイブリッド方式の学会では、会場に集まる研究者は現地開催のセッションを選んで参加する傾向が見られる。このため、全面オンラインの場合と比べ、オンライン報告のセッションへの出席者は減少した。世界の研究者から広く助言を得て研究の発展に活かす機会が減ったと感じる。 以上のような困難にもかかわらず、可能な限り研究報告の機会を求めた結果、1回の国際学会と1回の国内研究会で研究報告することができた。特に毎年参加しているComputational and Financial Econometrics (CFE)はハイブリッド方式での開催となったが、これに日本からオンライン参加して研究報告を行い、貴重なコメントを多く頂くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
国債先物オプション市場の研究をさらに進める。日本銀行による長短金利操作政策導入(2016年)以降、特にコロナ禍において、同市場が財政・金融政策にどう反応してきたかを、価格・取引量両面から詳細に分析する。日銀は長期金利水準を許容範囲内に留める手段である指し値オペを頻繁に用いるようになっている。近年では新たな政策手段として連続指し値オペも導入されている。同オペに関する日銀のアナウンスメントや政策発動に市場がどう反応したかを分析することで、政策効果について重要な手掛かりを得られると期待される。 国内外で、インフレーションが喫緊の政策課題に浮上しつつある。本研究でも財政金融政策や原油価格・為替レート変動が国内の一般物価水準に与える影響を分析対象に加える。この目的のためにすでに、2021年度中に日経CPINow社よりスーパーマーケットなどで販売されている消費財価格の日次データ(総平均及び品目別)を購入した。これを基に2022年3月末までをカバーするデータセットを構築し、予備的分析を終えている。2022年度はこれまでのデータセットにこの新たなデータを結合し、政策担当者の問題意識に応える分析を行う。 研究成果を学術論文にまとめ、国際的学術誌に投稿する。また研究成果の社会還元に一層努める。特に2022年度は、インフレ動向によっては日銀の非伝統的金融政策が転換点を迎える可能性がある。経済動向に常に注意を払うとともにデータセットの更新を不断に進め、最新の情勢を取り込んだ分析を行うよう、心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度中は、2020年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響により、国内の移動、及び国外との往復にさまざまな制約が加わった。そのため国内外の学会・研究会での研究報告の機会を求めることが難しく、2019年度までと比べて報告回数は少なくなった。 2022年度は感染症の影響が収束に向かうと期待される。その場合には国内外の学会・研究会での報告回数を増やし、使用額の多くをそのための支出に振り向ける。それが難しい場合、オンラインでの学会・研究会に積極的に参加するとともに、そのための研究室内の環境整備に充当する。 一方で、大きく変わりつつある経済情勢や市場動向を分析対象に取り込むため、データセットを随時更新する。使用額の一部をそのための支出に振り向ける。
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備考 |
三菱経済研究所『経済の進路』2020年10月号~2021年3月号まで6回にわたり、コラム「千思万考」欄に「オイルショックと国内ガソリン価格」と題する連載を掲載した。
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