2023年度中は7つの国際学会・研究会で研究報告を行った。また2024年度中に1つの国際学会で報告することが確定している。また4つの国内学会・研究会で報告を行った。 2023年度の主な研究内容は次の2つである。(1) 日本銀行の非伝統的金融政策に関する実証研究を継続した。独自に開発した日銀の国債市場介入規模を表す指標を活用して、各時点で市場から上限・下限にどの程度の圧力がかかっていたかを計測した。そしてこの「債券市場圧力指標」の変動要因を分析した。(2) 家計の予想インフレ率の決定要因に関する研究を継続・発展させた。為替レートや原油価格は決定的な要因ではなく、消費者が頻繁に購入する財(加工食品など)の日々の価格動向が重要であることを明らかにした。ガソリン価格の変動もある程度の影響を与える。 研究期間全体を通して、日銀の非伝統的金融政策の波及経路として国債市場が重要であることを明らかにした。そのために国債先物オプション価格という、これまでのマクロ経済研究では注目されていなかった変数に注目し、そこからボラティリティ・スマイルと呼ばれる指標を構築した。そして金融政策がそれに強い影響を及ぼしていることを明らかにした。その後は上記の通り、日銀の国債市場介入に関する研究を行った。 一方では金融政策が銀行貸出に与える影響を、個別地方銀行の財務データを基に分析した。その結果、2013年の量的・質的緩和政策開始以降は、貸出を通じた波及経路は重要ではなかったことがわかった。上記の結果と合わせ、政策効果が発揮される主たる経路が貸出市場から国債市場に移ったことを明らかにしてきたと言える。 また国内ガソリン価格や予想インフレに関する研究を行った。これらは日次データをフル活用した点で新しいものだった。金融政策が物価に効果を持つには家計が日常的に接する財価格動向に働きかけることが重要であることを明らかにした。
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