研究課題/領域番号 |
18K01606
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大森 義明 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10272890)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 移民 / 経済成長 / 自然災害 / 自然実験 / 操作変数 |
研究実績の概要 |
地球温暖化による気候変動は、高潮、沿岸部の洪水、海面上昇・大都市部への内水氾濫による健康障害や生計崩壊、極端な気象現象によるインフラ機能停止、熱波による死亡や疾病、気温上昇・干ばつによる農業生産減少と食料不足、陸域・水域の生態系・生物多様性への悪影響による経済的損失などの深刻な問題を引き起こす。今後は、深刻な影響を受ける地域から他地域へ人口が移動し、温暖化の影響は広範囲に及ぶと予想される。しかし、自然災害に誘発される移民が受け入れ国・地域の経済に与える因果効果に関する分析は僅かしかない。 本研究は、体系的な国別パネルデータを用い、①自然災害が移民に与える因果効果、及び、②自然災害によって誘発される移民が各国の経済成長(一人当たりGDP成長率)に与える因果効果を推定する。本研究のオリジナリティは、海外の自然災害を自然実験と捉え、移民の受け入れの操作変数として利用する点にある。 初年度に引き続き、天然資源の埋蔵量と自然災害に関する, 国を観察単位とするパネルデータの構築に取り組んだ。第一に、原データが入手できる最新年度までデータを追加した。第二に、対象とする鉱物資源の種類を大幅に拡張した。初年度には、鉱物資源の範囲を多くの国で産出される主要鉱物資源に限定していたが、原データに記録されている全ての鉱物資源へと対象を広げた。第三に、対象とする自然災害の種類を大幅に拡張した。第四に、分析対象とする期間中に生じる国の誕生と消滅に関するデータを新たに構築した。 原データに見られる欠損値、不整合、単位の違い、複数のデータソース間に見られるデータ様式やコードの差異の処理に多くの時間と労力を費やした。特に、原データで報告される鉱物資源の種類や報告様式(名称、粗量/含有量、埋蔵量の推定方法等)は、国と年度の間で異なるケースがあるので、相違点を明確に記録するよう細心の注意を払った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ構築はおおむね順調に進展しているが、僅かな遅れが生じている。鉱物資源データの扱いにおいて困難な問題に直面したので、初年度に引き続き、データ入力と編集にはリサーチアシスタントを活用せずに自ら取り組むことにした。PDF形式の原データで報告されている鉱物資源の種類や報告様式(名称、粗量/含有量、埋蔵量の推定方法等)が国の間で異なるだけでなく、年度間でも異なるので、PDF形式の現データの解説や表の注釈で詳細を確認し、対応をすることに多くの時間と労力を費やした。当初は、異なる様式で報告される類似の鉱物資源を比較するための様々な換算方式の使用を試みたが、換算について調べる内に数多くの技術的問題があることが判明したため、最終的には換算をせずに原データのまま扱うことにした。同種の鉱物資源の報告様式の相違(粗量/含有量等)は、生産関数に含まれる当該鉱物資源の係数パラメータの差異として反映されるであろうと考えている。 年度末には首都圏での新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、予定していた研究時間を確保できなくなった。
|
今後の研究の推進方策 |
国を観察単位とするパネルデータの構築を続ける。初年度と第2年度に作成した, 国境、天然資源、自然災害に関する変数を構築するプログラムとデータを詳細に再確認し、必要な修正を施す。次に、一人当たりGDP、移民ストック、人的資本、国と国の間の距離等の変数の構築に取り組む。最後に、各変数のデータを融合し、年毎のデータを基に数年毎の集計データを構築する。 分析データが整ったら、記述統計分析、回帰分析(最小二乗推定、固定効果推定、固定効果・操作変数推定)を行う。様々な定式化を試み、結果の頑健性を確認する。 本研究を遂行する上での課題は、データクリーニングに多くの時間と労力を要することである。特に、主要鉱物資源を除く鉱物資源の埋蔵量に関する原データは、各国政府の調査報告書に基づくPDFファイル形式で与えられており、報告様式が国の間で異なるだけでなく、年度間でも異なるため、国を単位とするパネルデータを構築するには、多くの時間と労力を割かねばならない。鉱物資源の埋蔵量は、経済成長に大きな影響を与えると考えられているものの、既存の実証研究の大半は、鉱物資源の埋蔵量は一定であると仮定し、分析から省いてしまっているのが実情である。 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛やテレワークの要請を受け、研究室のワークステーションにアクセスできない状況がしばらく続く見込みである。数十のPDF形式の原データを含むファイルを同時に開き、比較するような作業は、大きなディスプレイ、大きなメモリを要するので、テレワーク環境では難しい。 これまで目視で行って来たPDF形式の原データの注釈や解説の確認をスクレイピングによって部分的に自動化する等の方策を検討する。
|