本研究では、途上国における知的財産制度の有無が、先進国企業から途上国企業への環境技術移転に与える影響を理論的に分析した。想定した技術移転は、アウトソーシングを通じた先進国の川下企業から途上国の川上企業への垂直的環境技術移転である。また、知的財産制度の有無は、環境技術の採用コストに関連しており、知的財産制度がない場合、途上国の新規参入企業は既存企業と同じコストで環境技術を採用することができる。 最終年度は、途上国(川上)企業が排出する汚染に対する環境税のかけ方として、生産地(途上国)で課税するケースと消費地(先進国)で課税するケースの2種類について検討した。本研究課題では、財の消費地として先進国市場を想定しているため、途上国(川上)企業が排出する汚染は先進国の責任であるとも考えることができる。サプライチェーン全体での排出削減を考える場合、どこで課税をするのが最も効率的かというのは重要な問題である。そこで、最終年度は、知的財産制度の有無により、環境技術移転を促すためにはどこ(生産地or消費地)で課税するのが望ましいかという課題に取り組んだ。 得られた結果は以下の通りである。途上国に知的財産制度がある場合、生産地(途上国)で課税するよりも消費地(先進国)で課税した方が、アウトソーシングを通じた環境技術移転を促進する可能性がある。また、途上国に知的財産制度がない場合は、生産地(途上国)で課税するよりも消費地(先進国)で課税した方が、環境技術移転を促進する。 期間全体を通じて明らかになったことは、途上国での知的財産制度は、アウトソーシングを通じた環境技術移転の阻害要因になり得るということである。ただし、この結果は、知的財産制度を否定するものではなく、重要なのは先進国からより質の高い環境技術を引き出すためには、新規参入企業に対する技術支援等が重要になるということである。
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