2022年度単年の研究として,範囲の経済,範囲の不経済が民営化政策にどのような影響を及ぼすかについて研究を進め,範囲の経済の存在は民営化の程度を引き下げるが範囲の不経済の存在は必ずしも民営化の程度を引き上げるとは限らないことを明らかにした. 本課題の期間を通して,公企業が複数市場に財を供給する複数市場競争においては(1)市場間の競争の違いだけではなく,公企業の費用特性(規模の経済や範囲の経済の存在)も最適な民営化政策に影響を及ぼし,これまで部分民営化が望ましいとする主張が必ずしも成立しないケースが存在すること(2)価格競争下での価格戦略まで考慮すると,財の代替性や補完性などの条件次第で価格差別下での部分民営化が望ましくなることを明らかにした.また,公企業が複数の財を供給する状況では(1),財の代替性の程度によっては,市場に参入している私企業数が十分多いケースでも民営化しないことが社会的に望ましくなること,(2)長期均衡においては,公企業が生産を担当しているいずれの部門も民営化しないことが社会的に望ましいくなること,およびその時に実現する市場に参入する私企業数は,必ずしも過剰参入とはならないことが明らかにされた. ただし,公企業が複数の財を供給しているケースについての最適な部分民営化政策の在り方についての結論の見出すところまでは至らなかった.また,複数市場競争下での長期均衡についても結論を見出すところまでは至らなかった.
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