本研究の目的は,日本の地域経済において,高速交通ネットワークが果たす役割とその経済効果を明らかにすることである。本研究の実績は下記4点にまとめられる。 1)地域間ネットワークの強度を把握する市場アクセス指標の開発:地域間の旅客移動で利用する交通モードのデータを活用することで,主要交通モード別の時間距離とその分担率を把握し,都道府県間の旅客移動に伴う時間距離に関する指標を開発した。 2)地域間ネットワークの生産性向上の対する影響の定量分析:開発した市場アクセス指標をもとに,地域間ネットワークの経済効果を定量分析した。その結果,高速交通ネットワークの整備が地域間の相互外部効果を引き起こし,「借用規模の効果」を通じて地域経済の生産性を上昇させ,地域間の生産性格差収束に影響を与えたことが示された。 3)リニア中央新幹線導入の経済効果に関する感度分析:リニア中央新幹線敷設で実現する地域間の時間距離短縮の大きさを推計し,市場アクセス改善を通じたリニア中央新幹線の地域経済効果について感度分析を実施した。その結果,リニア中央新幹線の開通は沿線地域にとどまらず,沿線地域以外の地方においても大きな経済効果を実現する可能性が高いことが明らかとなった。さらに,リニア中央新幹線開通は,地域間の旅客移動において自動車からのモーダルシフトを引き起こし,自動車による長距離移動を減らす可能性が高いことも明らかとなった。 4)これまでの知見の体系化:これらの実証結果を踏まえて,地域マクロ的な視点から,国土形成計画におけるスーパー・メガリージョン形成において地域間ネットワークが果たす役割を定義するとともに,国際学術誌において発表された個々の実証的知見を学術図書出版を通じて体系化・公表した。
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