研究課題/領域番号 |
18K01619
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松浦 寿幸 慶應義塾大学, 産業研究所(三田), 准教授 (20456304)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 輸入競争 / リストラクチャリング / 製品構成 |
研究実績の概要 |
本年度は2本の論文を査読付き学術誌に掲載し、2本の論文を投稿中である。採択された2本のうちの一本は、日本の対中海外直接投資によって日本からの製品輸出がどのように変化するかを分析したものである。海外直接投資と輸出の間には補完性があることが知られているが、製品レベルのパネルデータを使うことによって、海外進出後の経過年数を考慮した分析が可能となった。分析結果からは、差別化財や生産工程の上流に位置する財で輸出の継続確率が高いことが分かった。また、海外現地法人が産業集積地に立地していたり、親会社が大企業である場合、輸出財の継続確率が低くなることが分かった。 もう一つの論文は、タイの企業レベル・製品レベルの貿易データを用いて、地域貿易協定(Regional Trade Agreement, RTA)が製品レベルの貿易に及ぼす影響を分析している。本論文では、企業の輸入を、使用されているRTAなどの関税制度によって区別している。その結果、RTAの利用は輸出を拡大させるわけではないということが分かった。この結果は、RTAによる輸入を行っている企業は国内市場を主なターゲットにしていることを示唆するものである。 投稿中の論文では、中国からの輸入の拡大が、日本企業の国内生産の品目転換に及ぼす影響について分析したものと、輸入競合産業における企業のリストラクチャリングのパターンについて分析したものである。後者については、製造業企業のサービス化に注目しており、輸入競争により特に規模の大きい企業でサービス分野に展開する企業が増えていることを指摘している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大により、多くの国際研究集会や研究打ち合わせが中止になったり、オンラインに切り替わったりしたため、その対応に迫られた。こうした状況であっても、さまざまな工夫のもと、研究発表の機会を確保したり、国際共同研究の打ち合わせを継続することができた。その結果として、2本の論文を査読付き学術誌に掲載させることができたほか、2本の論文を投稿している。また、現在進めている研究をさらに進化させるためにデータの購入や収集・入力を進めるなどの次年度に向けた研究の下準備も着実に進めている状況である。これまでに、輸入競争による製品レベルの売上・生産継続の傾向とその要因についての分析はある程度目途がついたため、製品転換の分析に注力していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究計画の最終年度であり、これまで進めてきた研究を論文にまとめ、査読付き学術誌への投稿・掲載に向けての仕上げを行う。次年度は、輸入競争によって、どの程度、製品転換が促されたか、また、どのような企業でその傾向が顕著であるかを分析する予定であるが、2020年度から整備してきた、製品レベルの競争状況に関するデータや海外直接投資のデータを接続して分析を進めていく予定である。 2021年に入っても、新型コロナウイルス対策ワクチンが出回るまでは、国際研究集会や研究打ち合わせは中止やオンライン化の傾向に変わりはないと思われるが、さまざまな工夫のもと、研究発表の機会を確保し、国際共同研究の打ち合わせを継続して研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により多くの国際学会が中止になり、また、国際共同研究の打ち合わせをオンラインに切り替えたため、予定していた海外出張を中止にせざるを得なくなった。そのため、実際の支出額が当初予定していた金額よりも少なくなってしまった。2021年度は、延期になった国際学会への参加、および2020年度から開始した、データベースの拡張作業等に支出を行い、データ分析の深化させる。できるだけ早い段階で論文を完成させ学術誌への投稿を目指す。
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