研究課題/領域番号 |
18K01622
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 由希子 津田塾大学, 総合政策学部, 教授 (30439757)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 財政健全化 / 病床再編 / 都市機能再編 / 感染症 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本における病床機能再編政策が与える影響のうち、各地域の、(Ⅰ)財政健全化及び(Ⅱ)関連サービス機能の集積を評価することである。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響拡大により、フィールドとする日本の状況は一変した。 具体的には、(1)赤字国債発行を財源とする、60兆円超の国の補正予算が成立するなど、感染症対策を最優先とする形となり、国・地方の財政健全化の目標設定自体が遠のいたこと、(2)全国各地の病床機能再編政策は、着工中など不可避な状況を除いて、一時的に休止された形となったこと、(3)病院や自治体へのアクセスが感染症対策上制約される形となり、新たな健康関連事業や公営施設管理事業等の遂行が物理的に難しかったこと、(4)病院や地方自治体における感染症対策業務の比重が増し、通常の業務に制約が生じたこと、が挙げられる。 本研究は実地調査ではなく、統計的な調査を主とするが、研究対象となる当事者の状況の変化を受け、当初の「問い」は見直さざるを得ない。 そこで2020年度は、(A)2020年度の国の財政支出等の交付が、公立病院(地方公営企業)にとって、どのような影響を持ったか。(B)病床再編政策が、感染症を契機とした見直しを様られる中で、どのような改訂が求められるのか、という2点について主として検討した。 なお、感染症の影響を適切な形で評価する客観的な統計が公表されるまでには時間を要することから、速報値情報を利用した分析や、経年分析の手法を整える理論・方法論の考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
各種の休業・休校・その他自分や家族における日常生活の制約のため、物理的に確保できる研究時間が減ってしまった。また、研究補助者の雇用環境の見直しや、データの利用環境を整えるなど、リモート環境を含めて研究を再開できるよう、体制整備にも時間を要した。 加えて、研究開始時(2018年度)に設定した研究上の「問い」についても、見直しを要した。社会の持続のための、財政健全化、病院機能の再編、都市機能の集積、といった目標の長期的な必要性には変化がなく、むしろ、より重要性を増している。しかし、感染症対策を最優先とする環境下において、残存する研究期間内でこれらの「問い」を設定することは現実的なものではなくなった。 なお、2020年度の大幅な財政支出の増額は、単純に経済政策として正当化しうるものではなく、1つ1つの項目の目的・内容・規模・影響を評価する必要がある。2020年度はそれらの情報の正確な収集と整理を行うことにあらたに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始時(2018年度)に提起した病床機能再編政策の重要性については、感染症下で医療提供体制の脆弱性が露呈したことにより、一層高まっていると考えられる。一方で、総論賛成各論反対になりがちな課題であることから、病床機能再編政策が、社会の持続に資するというエビデンスデータも求められている。 その点、本研究では当初より「基礎自治体における財政状況の健全化」「一人当たりの保健・医療・介護拠出(性・年齢階級別)の変化」「都市空間における健康関連サービスネットワークの構築」の有無が重要と考えており、基本的なアウトカム(研究目的)に大きな変化はない。 しかしながら、目下感染症対策としての財政支出が避けられない環境にあり、また本研究の期間も限られていることから、当初の「問い」として設定した、財政健全化やサービスの集積に関する考察は見直さざるを得ない。漸進的に取組が進んでいたとしても、感染症対策における財政支出や各種の行動制限の影響力のほうがはるかに大きく、十分に計量的に評価ができないためである。 そこで、今後の方向性として、(A)2020年度、2021年度の財政支出(基礎自治体を通じて交付されたものを含む、対医療機関向け)の妥当性を検証し、(B)研究開始時の課題として掲げた病床機能再編政策には、感染症を契機としてどのような再定義が必要かの検証を行う。また(C)財政健全化そのものを今後どのように進めてゆくべきか、という一定のシミュレーションにも取り組みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は研究に充てる時間的制約、リモートワークに対応した研究環境や研究補助員の雇用環境の構築などが必要であったため、研究活動を本格的に再開するまでに時間を要した。 研究の進捗は遅れているが、研究課題自体は、感染症対策の検証などタスクが増えている状況であり、今後の研究活動で問題なく使用することが可能と思われる。
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