研究課題/領域番号 |
18K01627
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
海老名 剛 明治大学, 商学部, 専任准教授 (00579766)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 合併 / 厚生 / イノベーション / 産業組織 / リアル・オプション |
研究実績の概要 |
今年度は,主として,以下の3つの研究に取り組んだ. 1本目は,相関があるものの異なる不確実性に直面する2企業が,敵対的買収と友好的買収のいずれかを,いつ提案するか,について考察を行った.具体的には,相関をもつ2本のブラウン運動に従う不確実性に,各企業が直面すると仮定し,敵対的買収を行うときのみ,合併コストがかかるモデルを構築した.そして,均衡での閾値を導出した.結果として,経済環境と合併コストに応じて,時価総額でみて小規模な企業が,大規模な企業を買収する条件を導出した.また,モデルの拡張として,借入制約や合併プレミアムを支払うケースを分析した. 2本目は,トロッコ問題に類似した状況での自動運転車の最適行動について,社会厚生の観点から,分析を行った.結果として,最適値における各主体の限界効用の比較が重要な点,最適値が連続かつ単調に変化する点を導いた.特に,先行研究による各国の調査結果と比較し,我々のモデルで導入したパラメータが,どの国でどのようなアルゴリズムを導入すればよいかを明らかにするうえで,1つの解釈基準となることを明らかにした.特に,アメリカや一部の西ヨーロッパ諸国ではベンサム型の設定が好まれる点,中国,インド,日本を中心とした一部のアジアやアフリカ諸国では,そうではない点を議論した. 3本目は,事例ベースモデルとピークエンドモデルを融合し,新製品を開発する企業に対する意思決定サポートシステムを構築した.先行研究では,同一財を複数回購入している状況のみしか分析できなかった.対して,本研究では,情報システムの分野で導入されている類似度関数を組み込むことにより,異なる財を複数回購入する状況に関する分析が可能となった.日本のテレビドラマの視聴率データをもとに検証し,本研究のように,ピークエンド,および類似度関数を導入したモデルの方が,より予測の精度が高まることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国際学術雑誌に投稿中の論文のうち,3本が改訂要求を受けているが,いずれもアクセプトには至っていない.各論文の詳細については,【研究実績の概要欄】で記述している.論文を執筆する上での,基本的な研究結果は順調に出せているものの,アクセプトには至っていないため,上記(3)の判断とした.具体的な理由は,下記の通りである.1本目の論文は,不確実性を伴う環境下での企業の合併に関する意思決定を考察している.査読者より,戦略空間と均衡の精緻な定義を求められている.2本目の論文は,イノベーションに伴う自動運転の最適行動と社会厚生に関して考察をしている.査読者より,人工知能における他分野の研究との関連付け,最新の文献の調査,新たなシミュレーション結果,を求められている.3本目の論文は,事例ベースとピークエンド理論を融合することにより,新たな意思決定モデルを構築している.査読者より,論文の再構成と,モデルの詳細な説明が求められている.以上(3)と判断した詳細な理由である.
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今後の研究の推進方策 |
上記の【現在までの進捗状況】で説明した3本の論文の改訂を最優先して進める.1本目の論文については,共同研究者の1人が既に戦略空間と均衡の精緻化を行った論文を発表しており,その流れに沿って,本論文の改訂を進めることを確認している.特に,変数が増えた点,純粋戦略が増えた点,価値関数の形状が異なる点から,改訂に伴い,困難が発生する予想されるため,特に,これらの点に注意する方針である.2本目の論文については,共同研究者の1人が自動運転の最新研究について,サーベイを行う.新たなシミュレーションについては,私が担当する.特に,自動運転車の乗員と歩行者の数値を変えることにより,これまでとは異なる結果が得られることが予測されるため,設定毎の結果を導き,細かな比較を行う予定である.3本目については,論文の再構成や説明の追記といった,比較的容易な改訂であると考える.そのため,共同研究者と役割を分担し,改訂を進め,再投稿を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に伴い,海外出張が取りやめとなったため,差額が生じた.また,1年間,本プロジェクトを延期することに伴い,次年度の英文校正サービス,消耗品等の購入費用として支出する予定である.
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