研究実績の概要 |
本研究では、慶応義塾大学パネルデータ設計・解析センター「消費生活に関するパネル調査」を用いて、性別役割分業意識による行動規範が女性の就労時間・家事時間選択に対しどのような影響を持っているかを検証した。 Akerlof and Kranton(2000)が掲げたIdentity Economicsでは、人々の行動規定要因として、金銭的インセンティブと共に、個人が抱く規範意識が重要であり、その規範からの逸脱を避けるように行動する傾向にあることが示された。Sakamoto and Morita(2020)では、性別役割分業意識がもたらす行動への影響を分析し、Bertrand, Kamenica and Pan(2015)、Wieber and Holst(2015)に倣い、「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」いわゆる性別役割分業意識が有配偶女性の行動を規定しているかを検証した。 主な分析結果は以下の3点である、①潜在的所得が夫よりも高い妻ほど就業を抑制する、②就業者に限定し、相対所得が高い女性ほどその逸脱行為を補うべく家事時間が長くなる、③妻は就業を選択したとしても、潜在的所得が夫よりも高いほど、潜在的所得と比べて実際の稼得所得を抑制させていることが確認された。 特に第2点目の分析では、妻の所得割合が高くなると当初は家事時間が減少するが、所得割合が55%〜60%を超えると逆に家事時間が増加し始めることが確認された。これは、Collective Model(Chiappori 1988、1992)の観点からは、妻の相対的所得を「交渉力」の要因とした場合、それが増加するほど、妻の余暇時間が増加、家事時間が減少すると考えられるのだが、本分析結果では、その効果には限界があるという重要な発見を得た。
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