研究課題/領域番号 |
18K01647
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大野 太郎 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (90609752)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 所得税 / 利子配当所得 / 再分配効果 / 全国消費実態調査 |
研究実績の概要 |
近年、金融所得課税の強化を通じて所得格差を是正する議論が高まりつつあるが、それに伴い家計の金融所得およびその税負担の実態・動向を明らかにすることへの要請も高まっている。家計の所得や負担を把握するにあたっては家計マイクロ・データを利用することが有益であり、その1つとして総務省『全国消費実態調査』が挙げられる。ただし、同調査は家計の属性や所得等について豊富な情報を有するものの、利子配当所得に係る記入については不正確であることが指摘されてきた。そこで、2019年度は『全国消費実態調査』(1989~2014年調査)の個票データを用い、利子配当所得の推計値を構築することで補正を加えながら、家計の利子配当所得とその税負担の実態を明らかにし、また税の再分配効果(所得格差の是正)について考察した。 研究成果として、(1)我が国が長らく直面する金融資産の収益率低下を通じて、家計の利子配当所得やその税負担は減少傾向にあること、(2)こうした中、利子配当課税の再分配効果はかなり限定的であるが、このことは収益率の低さよりもむしろ現行税制の特徴に起因していること、などが確認された。こうした結果を踏まえ、再分配効果の向上を目的とするとき、利子配当所得について総合課税の対象を拡げることなどを検討する必要がある。近年、税制改正の議論では所得税における所得再分配機能の回復が求められているところであるが、その中で利子配当所得課税の再分配効果を高める政策対応も重要性の高いテーマとして位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は我が国の税制・社会保障制度が果たす再分配効果について考察することである。2019年度は『全国消費実態調査』の個票データを用い、同調査の所得情報に適切な補正を加えた上で所得税の再分配効果について考察し、その成果は年度内に論文としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では日本の税・社会保険料の再分配効果について考察する。再分配効果は負担・給付を通じた所得格差の変化に着目するが、その時点間比較には制度の変更に伴う「制度変更要因」のみならず、所得分布や人口構成などの変化に伴う「非制度変更要因」の影響も含まれる。2020年度は我が国の中間層に関する近年の考察も踏まえ、『全国消費実態調査』の個票データを用いて各所得階層(高・中・低所得層および貧困層)の構成比に着目し、総所得と可処分所得それぞれで見た構成比の比較を通じて、これを税・保険料(所得税、住民税および各種保険料)による再分配効果として捉える。そして、調査票に記載された世帯の所得や属性に現実の制度を当てはめて負担額を推計するマイクロ・シミュレーションの手法を適用して、制度変更要因と非制度変更要因の分離を行い、再分配効果の変化と各要因の寄与について計測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文校閲等に関する支出を見送ったため、次年度使用額が発生した。次年度の助成金は英文校閲等にも充当する予定である。
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