本研究は、研究教育機関である大学の生産構造分析を行うことを目的としている。その意義と重要性は、データの利用可能性の点から強い制約を強いられる従来型の費用関数を用いた分析方法ではなく、費用と生産の双対性によって導かれる新たな方法を採用すること、さらに、大学教育の需要者の選択行動の分析において、従来の公共経済学的な視点からモデルを分析するだけでなく、そのなかに心理学分野の学問的成果を有機的に取り込み、新しい高等教育モデルを構築して分析することにある。最終年度の具体的な取り組みとしては、前年度から継続して行った前半部分の検討、具体的には私立大学のデータをもとに新たな計測方法であるインプット距離関数を用いた規模の経済性と範囲の経済性の検証を行った。国立大学については、前年度から行っていた大学HPから各種データを収集してデータベース化を行った。それらをもとに、アウトプットに関しては学部教育と大学院教育はそれぞれの在籍学生数で測り、研究は獲得した学部研究資金の件数を代理変数とした。インプットに関しては教員および職員はそれぞれの人数で測り、資本ストックは期末有形固定資本残高を用いた。インプット距離関数にはインプットとアウトプットの他に、大学の属性をコントロールするため、学部編成に関して数種類のダミー変数を定数項に適用した。それによって技術効率性を推定すると、無視できない大きさの技術非効率の存在が確認され、費用最小化に基づく非効率項を持たない費用関数を用いた従来の分析方法が大学機関の分析には必ずしも適切ではないことが確認できた。
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