本研究では、妻の就業選択が夫妻所得の階層移動に与える影響を分析し、妻の就業選択が夫妻の所得格差に与える影響を明らかにする。また、既婚女性に対する現在のワーク・ライフ・バランス施策が夫妻所得の格差に与える将来的な影響について明らかにし、所得分配の観点から今後の女性に対する就業支援策のあり方を検討する。更に最終年度では、社会規範が妻の就業選択を通じて夫妻の所得に与える影響を検証した。 分析の結果、以下のことが明らかとなった。(1)夫の所得が低いほど妻が就業、育児休業取得、就業継続をしており、妻の所得が夫妻所得を補完する役割が大きくなっている。したがって、ワーク・ライフ・バランス施策は夫の所得が低い世帯の夫婦所得を改善するのに有益な役割を果たしている。しかし、夫の所得が低い世帯では妻の稼得能力も低いため、夫妻所得の相対的な位置を劇的に改善させることは難しい状況となっている。夫妻所得の格差改善の観点からは、低所得世帯の妻に対し、教育・職業訓練などを通じて技能形成を促し、稼得能力を高める支援をすることが必要である。(2)妻が就業している場合、夫の所得が高いほど妻の所得水準が高く、継続的な就業による稼得能力の上昇効果も大きい。このため、現在は、夫の所得が高いほど、妻の就業率は低くなっているが、今後、夫の所得が高い層での妻の就業率が上昇し、育児休業の利用や就業継続がより選択されるようになるならば、ワーク・ライフ・バランス施策は夫妻所得の所得格差を拡大する可能性がある。(3)社会規範の観点からは稼得能力の高い妻ほど就業を抑制していることから、夫婦の所得格差を拡大しない方向で作用をしていると考えられる。今後、社会規範の改善やワーク・ライフ・バランス施策の普及により稼得能力の高い妻の就業が促進される場合は、夫妻所得の格差を拡大する可能性があるため留意が必要である。
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