本研究課題では、日本家計パネル調査(JHPS)をデータソースとして、日本において医療の格差・不平等はどの程度医療費自己負担率や景気循環の影響を受けるのか測定・分析した。英文査読誌に掲載された、本研究課題の代表者および分担者による論文Sakoda et.al(2022)では、2008年から2018年までのJHPSパネルデータを用いて日本の健康格差がどのように推移してきたか、また特にリーマンショック期に健康格差はどのように変化したのかを統計的に分析した。その際には、所得階層ごとに、医療費ニーズがどの程度の金額なのかをそれぞれ推定し、その推定額と実際の医療費支出額との差を計算して、医療ニーズと実際の支出額の間にギャップがあるのかどうかを確認した。低所得者層ではそのギャップが大きくなっており不平等と見ることができる。次に、この所得階層ごとに測定したギャップを基に日本全体での不平等性の大きさを示す指数を作成した。結果として、不況期(いわゆるリーマンショック期)には、低所得者だけではなく中所得者までもが、医療ニーズに比して実際の医療費支出を減らす傾向が見られた。この期間では不況が所得階層間の医療の格差・不平等性を大きくすることが示唆された。一方で、他の期間では景気循環と医療の不平等性には統計的な関係が見られなかった。また、世代ごとに不平等性を測定すると、現役世代での不平等性は、引退世代での不平等性より大きかった。
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