本研究では、認知能力のスキルのミスマッチが賃金に与える影響を19か国で分析し、雇用の流動性に関する制度の違いによってスキルのミスマッチが賃金に与える影響の大きさが説明できるか否かについて分析した。スキルのミスマッチが生じている場合、労働者が自身のスキルに合う企業へのスムーズな転職が可能であればミスマッチは解消される。したがって、スキルのミスマッチが賃金に与える影響は各国の雇用の流動性の程度にも依存すると考えられる。 分析の結果、多くの国で労働者企業から要求されるスキルの水準を上回るスキルを持っているケース(スキルの余剰)はスキルがマッチしているケースと比較して低い賃金を得ているが、労働者が企業から要求されるスキルの水準を下回るスキルを持っているケース(スキルの不足)はマッチしている労働者と比較して高い賃金を得ていることが明らかになった。さらに、雇用の流動性を妨げるとされる雇用保護制度・失業給付、雇用の流動性を促進するとされる積極的雇用政策の程度によりスキルのミスマッチが賃金に与える影響を変化させているのかを分析した結果、雇用保護制度や失業給付はスキルのミスマッチが賃金に与える影響を変化させることはなかったが、積極的雇用政策はスキルのミスマッチが賃金に与える影響を緩和させることが明らかになった。 本研究の意義は、スキルの余剰が発生している場合にマッチしている労働者と比較して賃金は低くなり、スキルの不足が発生している場合にはマッチしている労働者と比較して賃金が高くなることを示したこと、スキルのミスマッチが生じている場合に雇用の流動性を促進する積極的雇用政策を行うことによってスキルのミスマッチによる賃金のプレミアムやペナルティを解消することができる可能性があることを明らかに出来たことである。
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