超低金利によって引き起こされるマクロ金融・経済問題は、それが長期化する中で深刻化していることは広く知られている.先行研究では最近になって主にニューケインジアンの枠組みを用いてそれらの問題が学術的に分析されている.しかし、低金利下のマクロ金融・経済問題が、ニューケインジアンモデルのみによって十分に解明されるわけではない.ニューケインジアンモデルは学術的にも政策実務的にも長年有用で大きな成果を挙げてきているものの、典型的には名目価格硬直性の仮定に制約される.一方で、現実には名目価格硬直性以外の経済・金融摩擦によってもマクロ経済は歪められる.実際に最近の物価動向を眺めると、名目価格の大きな変動可能性・不確実性が払拭できていない.そこで、ニューケインジアンモデルに基づく先行研究を補完するように、名目価格硬直性以外の経済・金融摩擦に注目して低金利下のマクロ分析をすることは重要である. そこで本研究では、名目価格硬直性に依存しない形での動学一般均衡モデルにおいて、特に、資産価格論の分野で一般化している金融摩擦要因(取引費用、デフォルトなど)や非期待効用要因(再帰的効用、曖昧性回避など)を加味しながら、連続時間の確率解析の手法を使い超低金利下での資産価格モデルを構築し、超低金利下での資本市場とマクロ経済の相互の影響を数値解析的に解明した.具体的には、名目価格の硬直性に依存することなく、取引費用やデフォルトや、再帰的効用の選好パラメータ、経済構造パラメータ次第で超低金利が銀行の資本制約を圧迫する状況を解明し、均衡の名目金利の下限を示した.
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