研究実施計画の三つの柱のうち(1)レバレッジの安定性・変動性の計測については、全企業のレバレッジの分布において各企業の相対的な位置を測定し、その位置の変化を長期にわたって追跡する手法を日本企業のパネルデータに適用した。その上で、本研究の日本企業に関する分析結果と先行研究で実施されている他国の分析結果とを比較した。その結果、金融システムで銀行が重要な役割を果たしている経済(日本を含む)では、レバレッジは相対的に安定しているとの結果を得た。第二の柱である(2)レバレッジ変動性と需要要因・供給要因との関連性の分析については、IPO前後でのレバレッジの変化や銀行借り入れなどの負債構成の変化に着目し分析した。その結果、IPOを実施する企業は、資金の需要側としてIPO後に銀行借入と社債の負債構成、銀行借入における調達構成を大きく変化させること、しかし基本的にIPO前のメインバンクはIPO後も資金の供給側として関与し続けるということが判明した。最後に、実施計画の第三の柱である(3)レバレッジと大型投資行動など企業行動との関係については、レバレッジの多寡が、配当と投資行動とのトレードオフに影響するとの実証結果を得た。実証結果の含意としては、レバレッジの経営者に対する規律付け効果が、配当と投資行動との相関を正から負に変えるポイントが存在する。また「レバレッジが低下した状態が続くと次の大型投資の確率が高まる」とする財務柔軟性に関する仮説を検証し、整合的な分析結果を得た。
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