研究課題/領域番号 |
18K01682
|
研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
得田 雅章 滋賀大学, 経済学部, 教授 (10366974)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 地域金融機関 / 多様性 / 地理空間分析 / クレジット・ ビュー / GIS / VAR |
研究実績の概要 |
地方創生が声高に叫ばれている背景には、地方都市の衰退という深刻な現状がある。本研究の背景には、金融の地理空間分析という新たな側面から、この現状にコミットできるという着想があった。本研究では、地域金融機関の与信行動を重視する金融枠組(クレジット・ビュー)に基づく、金融政策効果の地理空間分析を行う。独自指標「地域金融機関の多様性指標」を算出し、金融政策効果の不均一性に焦点をあて地域毎に定量化することで、政策分析に活用する。 本年度における一貫した研究テーマは、“非観測変数の定量化、ならびにその変数を用いた政策効果の実証分析”であった。過去の研究業績もこのテーマに沿った実証分析であり、I.金融政策効果の時系列分析、II.地価関数のパネル推計、III.基礎自治体・地域金融機関レベルでの各種パフォーマンス推計、の3つに大別できる。以下、各研究における成果について、簡潔にまとめる。 〔I〕金融不安定性と実体経済の相互関係に関して、アメリカ経済を対象としたVAR分析を行った共著論文が英文雑誌にアクセプトされ、公表に向けて作業中である。コロナ禍により出版先からの連絡が遅れがちとなっているが、20年度中には公表できると期待している。 〔II〕資産価格としての鑑定地価(地価公示・地価調査)を地域毎に加重平均地価として集約させ、クレジット・チャネルを重視した分析に取り掛かっている。その途中成果として、GISを活用した各種金融指標の表現例をホームページ(http://tkd-jp.com/)に公開し、広く意見を募っている。 〔III〕経済効測定調査の成果は、研究成果物得田(2020)としてまとめることができた。地域特性に応じたパネル分析に関しては、全国約百行の地銀・第二地銀を対象とし、貸出産業別多様化に伴うパフォ-マンス効果について、得田・森(2019)でまとめることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
投稿した英文雑誌から、理論面からの大幅な見直しを求められる2度の条件付き採択を受け、共著者ともどもそれらの対応に追われた。その結果アクセプトされ、公表に向けて作業中である。 研究全般にかかる理論的検討およびソフトウェア操作スキルの向上に注力してきた。まず、サーベイを通じて、時系列分野(パネルではない)での研究動向を把握すると同時に、実証分析で用いるダイナミック・パネルVARモデルと整合的な理論モデルの定式化を検討した。次に、実証分析に用いるGISソフトウェア(ArcGIS)では、データベース言語であるSQLの理解が必須となっているため、SQLコードの習得に努めた。同時に、地理情報とマージさせる前のパネルデータセットの構築にも注力した。 整備が完了した主なパネルデータには、①個別金融機関の多様性(業務・貸出分野・貸出部門)、②個別金融機関のパフォーマンス(ROA・ROA標準偏差・Zスコア)、③加重平均地価(公示地価、都道府県地価調査)、④他集計マクロ変数(金融不安定性、金利、総生産等)がある。対象の地域金融機関は、第一地方銀行64行、第二地方銀行41行、信用金庫264庫であり、これまでに必要なものをピックアップ、整理、加工がほぼ完了した。 整備が完了したデータについては逐次記述統計を確認し、複数のデータを組み合わせた主題図(静止図・アニメーション図)を作成した。信用金庫に関わるデータに関しては、パフォーマンス関数の推計として得田・森(2019)で検討し、地域金融機関の短期収益性や長期経営安定性に関する諸特性を確認した。なお、それら作成物の一部は自身のホームページ上に公開し、広く意見を募っている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は本研究の最終年度となるので、1・2年目の成果を取り入れ、金融政策効果を地理空間の視座から実証研究に取り組む。折しも、昨年度に某学会機関紙より寄稿依頼を受けた。これまでの成果をまとめて発表するジャーナルとして適切なので依頼を受託し、10月締め切り、翌1月発行のスケジュールで執筆を進める。研究の推進方策は以下の通りである。 多様化が金融機関の当期収益に限らず、収益の変動の程度や金融機関そのもののサバイバビリティに利する方向に働いているのかどうか、また、そうした影響がどの程度なのかという視点からの定量的観測を行うことが、これまでの金融機関経営の総括として、また今後の経営方針策定のヒントとして有益なものとなる。 金融機関パフォーマンスを向上させる多様化戦略は大きく「貸出産業別多様化」「業務多様化」「貸出先の地理的多様化」の3つに分類する。貸出産業別多様化は、金融機関の主要な収益源である貸出について、各種産業に従事する企業に幅広く貸し出すものである。業務多様化は貸出に加え、有価証券取引による収益や役務取引による収益といった複数の収益機会を図るものである。貸出先の地理的多様化は、貸出想定地域を狭いエリアに特化させず、より広い地理的エリアの拡大・柔軟性を図るというものである。 ゼロ金利政策に端を発する貸出金利の低下傾向は、マイナス金利政策の実施を経て一段と顕著になっている。金融機関はITやAIの駆使・導入による実店舗(支店)の統廃合や行員再配置という、実質的な削減を通じた経営の効率化を加速させている。同時に、従来型の貸出金利収益に依存する経営モデルの再考を強いられている。このように激しく変化してきた外部環境にどのような多様化戦略が奏功したのかという実績を定量化し、その結果を踏まえた政策分析や今後の地方に果たす金融機関の役割を展望する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究会参加および資料収集のための出張が、コロナ禍による出張自粛要請が出され取り止めとなったため。 コロナ禍が落ち着けば、2020年度で出張費として申請したい。自粛が続くようであれば、書籍あるいは備品等に充てたい。
|