研究課題/領域番号 |
18K01699
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
和田 賢治 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (30317325)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高次モーメント / 安全資産収益率 / マーケットポートフォリオ / 株価/配当比率 / 家計調査 / DSGE / 消費 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究実績は以下の6点である。1)既存研究のConstantinides and Ghosh (2017)には、家計レベルの消費のクロスセクションの上昇率に分布を仮定する際にジニ係数が発散するという問題点が存在する。そのため、クロスセクションの水準に分布を仮定した。2)家計レベルの消費水準のクロスセクションの2次及び3次モーメントを、それぞれ家計のリスクに結びつけた。そして2つのモーメントが上昇すると、対応する家計リスクは上昇することを、解析的(2次モーメント)及び数値的(3次モーメント)に示した。3)上記2つのモーメントに対応する家計のリスクが、資産収益率に影響を与える異時点間の動的一般均衡モデルを作成し、さらに分布の仮定を置くことにより、安全資産収益率、株価/配当比率、マーケットポートフォリオ収益率の条件付き期待値及び条件付き分散の式を、解析的に導出した。4)英国の1983年から2014年までの家計調査のデータ及び英国の安全資産収益率、株価/配当比率、マーケットポートフォリオ収益率の四半期データを用いて、カリブレーションを行った。5)その結果、7つのパラメーター(時間選好率及び相対的危険回避度パラメーターについては妥当な値)を用いて、2つの導出方法に対して、すくなくとも集計レベルの消費上昇率期待値およびクロスセクションの家計レル消費の自己相関の2つのモーメント、及び安全資産の収益率並びに株価/配当比率の条件付き期待値の2つのモーメント、合計4つのモーメントが説明できることを示した。しかし、いずれの導出方法においても、資産収益率の分散は説明できない事が判明した。ただし上記を含む多くの既存論文においても資産収益率の分散は説明できない点は重要である。6)上記モデルを拡張しショックが3つあるDSGEモデルにおいて、上記モデルのショックが依然として重要である点を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、ヘッジできない家計レベルの消費リスクが存在する異時点間の動的一般均衡モデルを、クロスセクションの消費水準に分布の仮定を置くことにより導出した。そして安全資産収益率及びリスクプレミアムに対するオイラー方程式を導出し、それらの式をGMMで推定・検定した。今年度はこの成果をうけ、さらに分布の仮定をおくことにより、安全資産収益率、マーケットポートフォリオの収益率、株価/配当比率の条件付き期待値及び条件付き分散を解析的に導出した。その際Constantinides and Ghosh(2017)は資産収益率の理論式導出において、3次以上の項を0として近似しているが、当該研究ではダブルエクスポネンシャル(指数関数の中にさらに指数関数がある)項を近似した以外は、明示的には3次以上の項を0とおかずに理論式を導出している点に上記論文との差別化がある。またConstantinides and Ghosh(2017)とは異なり家計リスクに加えて、総消費の成長率および総配当の成長率の合計3つの変数にショックがある場合の分析を、DSGEを用いて行った点で当該研究の貢献がある。このような成果を踏まえ、3月にダーラム大学ビジネススクールのワークショップで発表を行った。この発表における理論的および実証的コメントをもとに、理論モデルの背後の仮定のさらなる明示化、実証研究の頑強性分析を行い、論文の第一稿を完成させた。唯一の問題点は、当初3月にシカゴで開催される国際学会に参加し、資産価格理論の研究者の発表を聴講し、意見交換を行う予定であった。しかしコロナウイルスの影響により学会が8月に延期になり参加できなかった。このように今後短期的には研究会や学会の中止及び延期が起きると予想され、意見交換や発表の機会が減少すと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は今年度の進展状況を受け、2つの方向で研究の進展を予定している。1つは実証上の課題で、現在の手法の延長である。現在の結果では安全資産の収益率及び株価/配当比率の条件つき期待値は実証研究により妥当なパラメーターの値で説明できているが、マーケットポートフォリオ収益率から安全資産収益率を引いたリスクプレミアムの条件つき期待値は説明できていない。パラメーターの値を変化させつつ妥当な値の範囲でリスクプレミアムの条件付き期待値を説明する事をめざす。2つはDSGEの課題で現在はシミュレーションのみ行っている。この結果をもとに、観測変数を用い、いくつかのパラメーターに事前分布を仮定し、推計を行った上で、シミュレーションを行う。そして3つのショックがあるモデルで、依然として消費のリスクに関するショックが重要かどう考察を行う。さらにショックを増やし同時に観測変数も増やして、4つのショックが存在するDSGEモデルにおいても依然として消費のリスクが重要や役割を果たしているか、検討を行う。その際に観測変数間の相関が高いと問題が起こるため、観測変数の選択にも注意を払う。このような拡張を行い、4月のオンラインワークショップでのコメントをもとにさらなる論文の改訂を行う。この改訂校をもとに、6月のヨーク大学でのワークショップで発表を行い、さらに理論モデルの精緻化、実証の拡張を行う。現在のコロナウイルスの状況からさらなる海外及び国内での発表の可能性は現時点では不明だが、発表できなければ今年度中に、発表できればそれらの発表でのコメントをうけさらに改訂を経て、今年度末か来年度に海外の雑誌に投稿を目ざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の3月にシカゴで開催される予定であった国際学会に参加し、ファイナンス及びマクロ分野の研究者の発表を聴講し、資産価格理論の研究者と意見交換をする予定であった。しかしコロナウイルスの影響で学会の開催状況が不明で、最終的に来年度の夏に延期になった。そのため航空券代金および滞在費用に予定していた金額が使用できなくなり、次年度使用額が生じた。次年度はコロナウイルスの状況によるが、この延期された学会に参加予定である。
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