研究課題/領域番号 |
18K01700
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
竹田 陽介 上智大学, 経済学部, 教授 (20266068)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中央銀行のバランスシート / 公開市場操作のMM定理 / 政策空間 / リバース・レポ / 超過準備への付利 / 情報効果 / 自然言語処理 |
研究実績の概要 |
日本・米国及び欧州の中央銀行は,2008年のリーマン・ショック後,量的緩和政策・フォワード・ガイダンスを強化したが,効果は発揮されなかった.日本銀行はその後,マイナス金利政策,イールド・カーブ・コントロールの導入を進め,主として国債購入によるバランスシートの拡張を一貫して行なってきた.一方,米国連邦準備制度は2017年末から段階的にバランスシートの縮小を続け,景気後退の兆しが見え始めた2019年に入り,バランスシート規模の維持に政策転換を行なった.また,欧州中央銀行は2018年から資産買入れ額を段階的に減らし,資産買入れプログラムを一旦は終了させた.しかしながら,2020年初頭に突発した新型コロナ・ウィルスの感染の拡大に伴う金融不安により,これらの中央銀行は再び資産規模の拡大を余儀なくされている. 本研究は,風雲急を告げる中央銀行の動向に関して,三つの方向から分析を進めてきた.第一に,中央銀行が発行した準備を如何なる短期の政府債の購入に充てても,財政当局と中央銀行を統合した政府全体の資産構成に変化はなく,実体経済に及ぼす効果に違いはないとするWallaceのMM定理に基づく現代貨幣理論(MMT)に関して,「政策空間」の観点から議論した.第二に,MM定理が考慮していない現実的な側面をモデルに導入し,非伝統的金融政策により拡大した中央銀行のバランスシートを活用する新しい金融政策について,理論的に明らかにした.具体的には,中央銀行が保有する国債を担保とするリバース・レポ取引の金利,銀行の超過準備への付利,それぞれを上限,下限とするコリドー型の金融政策を提言した.第三に,金融政策の変更が自然利子率に関する情報のシグナルとして機能する「情報効果」がフォワード・ガイダンスの効果を無効とした可能性について,中央銀行のコミュニケーション戦略に着目し,自然言語処理を用いて分析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗の一環として,中央銀行のコミュニケーション戦略に対して自然言語処理を用いた分析である"The Art of Central Bank Communication: A Topic Analysis on Words used by the Bank of Japan’s Governors"を,ディスカッション・ペーパーにまとめることができたため.
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今後の研究の推進方策 |
三つの方向で研究を進めていく.第一に,金融政策の枠組みに関して,非偶発的名目債務契約しか結べない家計がコロナ・ショックのようなマクロ・ショックに直面するとき,事前的なリスク・シェアリングを容易にするメリットが,中央銀行の名目GDP・ターゲティングにあることを理論的に明らかにする.第二に,マイナス金利の深掘りを容易にする中央銀行仮想通貨(CBDC)の導入に関して,Wallaceの貨幣需要に関する法的規制モデルに基づき厚生分析を行う.第三に,リバース・レポ取引レートと超過準備の付利レートの水準が逆転してきた米国の事例を精査しながら,論文"A Note on the 'New Normal' of Central Bank's Balance Sheet"(with Yuki Fukumoto and Yasuhide Yajima)を完成する.
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次年度使用額が生じた理由 |
英文校正・ジャーナルへの投稿を行なわなかったため.新年度において英文校正・ジャーナルへの投稿料に充当する予定である.
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