研究実績の概要 |
サプライ・チェーンの断絶,資源価格の高騰が,供給制約によるインフレの懸念を生んでいる.英米欧の中央銀行は,非伝統的金融政策によって膨らんだ資産買入れの縮小,利上げへの反転の舵を切った.コロナ危機後の社会経済環境の変化に対応する金融政策に関して,本研究は以下の三つの研究を進めた. 第一は,「人生100年時代」における長生きのリスクをシェアするリバース・モーゲージの役割について考察した.日本不動産学会シンポジウム『リバースモーゲージの新展開~現状と普及のための今後の課題~』において,「人生100年時代の家族とリバースモーゲージ:経済学の視点から」を報告した.第二は,経済のグローバル化が進展したわが国において,企業の価格設定行動が如何に変化してきたかについて分析した.デフレに見舞われてきた企業の価格転嫁を屈折需要関数の理論によって説明する論文"The Kinked Demand Curve is Alive and Well: Macro Evidence from Japan"を作成中である.一方,グローバル化・生産の自動化に伴い労働契約環境が変化した労働市場について,名目賃金の下方硬直性の原因をフェアな賃金水準にもとめるAkerlof(1982)を適用する論文"How Fair This Spot? Evidence from the Wage Phillips Relation in Japan"(with Shingo Umino)を進めている.第三は,政治的二極化を特徴とするポピュリズムが,中央銀行の独立性にもたらす影響に関して「書評:Monetary Policies in the Age of Uncertainty by Y. Matsubayashi, T. Nakamura,K. Aoki and W. Takahashi」『国民経済雑誌』(近刊)を執筆した.
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