「金融機関による投げ売り(Fire Sale)の資産価格・資源配分の効率性への含意」をテーマとする本研究の中核的な研究課題は、資産価格の変動,特に金融危機の初期に観察されるような金融機関の株式の投げ売り(Fire Sale)による株価のファンダメンタル水準からの下方乖離はなぜ生じるのだろうか?そして,そのような株価の下落は株式リスクプレミアムにどのような影響を与えるだろうか?さらに,動学的な資源配分の効率性や,家計の経済厚生にとってどのような意味があるのだろうか?を解明することにある。 これまでの研究成果として、一般均衡モデルを構築し、金融機関による投げ売りが生じるような競争均衡が存在することを示し、この理論モデルを使い、資産価格へのインプリケーションを分析した。また、2007年から2008年にかけて生じた世界金融危機時のデータを整理した。そして、現実に観察された所得格差の性質、金融機関や家計の資金循環統計の資産残高の推移、また株式価格指数と取引高などが、理論モデルと概ね整合的であることを明らかにした。これらを論文としてまとめ、国際的な学術雑誌に投稿している。 また、本研究を遂行する中で、資産間の裁定取引機会の存在の重要性を再認識した。従来の市場の不完備性だけでなく、家計(一般投資家)の主観的なリスク評価が異なる状況も、金融機関にとっての裁定取引機会になりうることに気づいた。そこで、家計(一般投資家)の主観的なリスク認識を考慮に入れた資産価格モデルに関する理論的な研究を行った。令和2年には、この研究を国際学会で発表した。また、国際的な学術雑誌に投稿している。
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