研究課題/領域番号 |
18K01705
|
研究機関 | 国際大学 |
研究代表者 |
平木 多賀人 国際大学, 国際経営学研究科, 教授(移行) (50208815)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | IPO市場 / 金融コングロマ化 / 新規株式の発行と配分 / ベンチャーファイナンス |
研究実績の概要 |
本研究は、企業の株式新規公開(IPO)の諸ステップにおける金融コングロマリット化が資本市場の資金配分効率性にどのように寄与してきたか、あるいは利益相反を生む非効率の温床となってきたかどうかを特にIPO株の配分を通して見ていく。金融コングロマリット化、特に銀行の証券引き受け業への参入の影響をIPOイベントを通して長期的に分析する。特に、融資機関(メインバンク)の引受業務への関わりと発行条件の決定、新株の機関投資家への配分その後の市場パフォーマンス、そしてその業績への影響を従来とは異なった視点で重層的に分析する。課題研究のこれまでの2年間の成果として、まず「金融コングロマリットのIPO株のプライ シングと配分への影響」を共著論文("Banks, IPO Underpricing, and Allocation in Japan")として主要国際ファイナンスジャーナルから公刊の目途をつけることができた点を挙げる。これはIPO株式の配分を扱ったわが国最初の本格的学術研究であり、その注目度は高い(フロリダ大学J. Ritterの世界のIPOデータベースに一部採用されている)。また、Social Science Research Network (SSRN)において①”Universal Banking, IPO Underpricing, and Allocation in Japan” の再改定版も公表した。関連研究として、②「IPO企業における初期資本移行とパフォーマンス」及び③「IPO事後市場でのモーメンタムとリバーサル」も既に分析の大半を終え、ワーキングペーパーとしての最終化ステージにある。研究課題の第1の目標である主論文のジャーナル掲載はジャーナル側の審査の遅延もあり正式採択には至ってないが、刊行の目途を立てることができた。残りの2点も最終年度には刊行予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の3課題:①「金融コングロマリットのIPO株のプライシングと配分への影響」、②「IPO企業における初期資本移行とパフォーマンス」及び③「IPO 事後市場でのリターンモメンタムとリバーサル」)を通して本研究課題の重層的アプローチをセットとして完結する。初年度では①の課題を論文としてジャーナルでの発表で最終化するとしていたが、本年度に持ち越されてしまった。最初にトップジャーナルで投稿が棄却された後、現在審査中のジャーナルに移行したため刊行の目途が立つまでに2年弱かかってしまった。②及び③に関しては、1年目に方法論の確立とデータベースとしての整備に手間取ったが、本年度末までに仮説検証においてかなりロバストな結果が報告できるようになり、現在論文を最終ドラフト化している。③においてはIPO市場を対象としたこれまで誰もなし得なかった新インデックスの開発も行った。②および③の主テーマ周辺の研究でも成果が上がってき、論文のドラフト化を急いでいる。ただしこれらは論文としては、完成が最終年度までずれ込んでしまう。この点で進捗が必ずしも満足いくものであるとはいえない。これらを総合的に判断すると、本研究課題の進捗状況は(3)の「やや遅れている」と判断せざるを得ない。 この不満足な結果の一番の原因は、近年におけるトップジャーナルにおける競争激化が挙げられる。ジャーナルにおいて一度棄却され投稿先を変えると、多大の時間的ロスが発生する。2番目の要因は、新型コロナウィルス流行で年度後半における国際学会などの中止や自らの意思での不参加という学術における予期しなかった新事態の発生が挙げられる。最後に、個人的要因として年度初期において外科的手術を必要とした病魔に襲われたことが挙げられる。これらのマイナス要因は最終年度においてはほぼ解消されると予想されるので、最終年度において遅れは挽回されると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
まず①の主テーマ「IPO株のプライシングと配分への影響」の共著論文 "Banks, IPO Underpricing, and Allocation in Japan"は、2019年12月Elsevierジャーナル再投稿しており現在最終結果を待つのみである(刊行はほぼ既定コースにある)。残り2つの関連研究課題(②「IPO企業における初期資本移行とパフォーマンス」及び③「IPO事後市場でのモーメンタムとリバーサル」に関しては、分析結果はほぼ仮説に沿ったものであり、最終年度の早い段階でワーキングペーパーとして、まずSocial Science Research Network (SSRN)の個人ウエブサイトにそれぞれ掲載する。その後、オンラインを含む内外の学会での発表し、年度央までにはさらに精度を上げて国際的に認知されたレフリードジャーナルへの投稿を行う。この過程において、②では特にIPO企業への銀行あるいはベンチャーキャピタルの関与や機関投資家への新株配分がどのように公開後の企業の資本・株主構造そして業績や株価と関係しているかどうかデータをアップデートしながらより頑健な結果を探求する。③については、特に、IPO直後の公開企業の株式の流動性(あるいは非流動性)がいかにリターンクロスセクション(特にモーメンタムとリバーサル)と交互作用を起こすか各IPO流動性属性に焦点を当てながら検証を深化させる。関連応用論文は2020年の日本ファイナンス学会で発表予定である。最後に本研究の主テーマと副テーマを統合し、著書として仕上げる準備を行う。バブル崩壊後の金融コングロマリット化での企業の起業から成長初期段階に至るまでの資金調達から上場、そしてその後の成長、さらには企業組織再編においてどのような戦略的特徴を有していたかをよりスペースをとって議論する。著書出版にはさらに1年程度が必要となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算未使用率がかなり高い55.5%(金額で747,849円)に上ってしまった。これは、主として、年度初期において前立腺切除手術を行ったことと年度後半における新型コロナウィルス流行により予定していた学会などへの出張が全くできなくなったことに起因する。結果的に支出の最大項目である旅費の全額が未使用に終わってしまった。また、新規導入したSASによる実証分析に適したアルバイト学生が年度前半においてなかなか見つからず、「人件費及び謝金」において支出の60%程度が未使用になった点も挙げられる。最終年度には、国内外の研究出張旅費と研究助手人件費を多めに使用する予定であるので、未使用予算の次年度への繰り越しは有益に使用されることになる。特に北米での学会発表と海外共同研究への経費を増額し生産性を高めていく。また、本務校で修士課程学生アルバイトを夏期休暇中集中的に雇用し最終段階での追加PC作業の効率化と生産性の向上を図る予定である。そして、IPO関連データがやや古くなっており、レフリーの指摘を受ける前にデータセットのアップデートも敢行する。これらの費用を勘案すると次年度繰越額は最終年度において有効に無駄なく使用される。いずれにせよ、最終年度には、これまでに遭遇した諸問題・課題がこの予算計画の積み上げで解消されると思われるので、予算と研究計画はより整合的なものになり論文の完成に資するはずである。
|
備考 |
(1)日本ファイナンス学会の第28回(2020年6月)大会発表論文「ファクター合成とポートフォリオ運用」(アルバータ大学渡辺雅弘氏との共著) (2)は現在審査中の英文共著論文①のフルバージョン(国際プロジェクト共著者はHonda, T&Ito, A.は一橋大学、Liu, M.は同志社大学に現在所属)
|