研究課題/領域番号 |
18K01707
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
神楽岡 優昌 武蔵大学, 経済学部, 教授 (40328927)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デフォルト強度 / リスクフリー・レート / Nelson=Siegelモデル / ソブリンCDSプレミアム / 国債金利 |
研究実績の概要 |
ソブリンCDSプレミアムはゼロでないから,国債を無リスク資産とみなすことはできない.したがって国債金利がデフォルト・スプレッドを包含しており,リスクフリー・レートは国債金利からデフォルト・スプレッドを差し引いて求めなければならない.デフォルト強度やリスクフリー・レートのモデル化や分析は,それらをCDSプレミアムや国債金利から推定したうえで行わねばならない.2018年度はこの課題を解決するため3つのプロジェクトを遂行した. 第1にソブリンCDSと国債から,その国家のデフォルト強度とリスクフリー・レートを分離して推定する手法を開発した. 第2に国債金利とソブリンCDSプレミアムの価格予測モデルを構築した.デフォルト強度のタームストラクチャーはその水準や傾きが変わるだけでなく,中期の満期にコブをもつこともある.そこでNelson=Siegelの関数形を適用して状態空間モデルを適用しパラメターを推定した.デフォルト強度カーブの形状を支配する減衰パラメターを時変に拡張したところに独自性がある.研究結果は国際コンファレンス ITISE 2018で発表した. 第3にデフォルト強度とリスクフリー・レートの相関を推定する数理モデルを構築した.デフォルト強度は正値性を尊重してCox=Ross=Ingersollのモデルを,リスクフリー・レートはマイナス金利の存在を考慮してVasicekモデルを適用した.研究成果はThe Journal of Fixed Incomeに掲載予定である. いずれのプロジェクトも実証研究は,米国とドイツを対象に行った.国家のデフォルト強度とリスクフリー・レートを分離して推定し,それらが負の相関を持つことが明らかにされた.またデフォルト強度カーブの減衰パラメターは時間ともに大きく変わり,デフォルト強度のレベルの上昇と共に減衰パラメターも増大することが明らかにされた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1年目に計画していた(1)国債金利とソブリンCDSプレミアムから,リスクフリー・レートと国家を対象にしたデフォルト強度を分離して推定すること,(2)国債金利とソブリンCDSプレミアムの価格予測モデルを構築することの2つのサブ・プロジェクトを完了した.研究結果は国際コンファレンス ITISE 2018 (5th International conference on Time Series and Forecasting)で発表し,聴衆から肯定的な反応を得た. 2年目に予定していた国家を参照体としたソブリンCDSとその国家が発行した国債から,リスクフリー・レートとデフォルト強度を分離して推定し,それらの相関の実証分析を行った.その結果,リスクフリー・レートとデフォルト強度の間に負の相関があることを初めて明らかにした.この研究成果はThe Journal of Fixed-Incomeに受理され,近日中に掲載予定である. したがって計画よりも前倒しでプロジェクトは進行していると判断される. 2年目に予定していた中で残る課題は,デフォルト強度とリスクフリー・レートの相関がある時のソブリンCDSプレミアムの評価モデルの開発であり,既に既存研究のレビューを進行中であり,幾つかの数値計算技法の有効性・有用性について比較を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
デフォルト強度とリスクフリー・レートの相関がゼロでない場合に,その相関の大きさがソブリンCDSのプレミアムや国債金利にあたえる影響を分析する.デフォルト強度はBlack=Karasinski型の対数分布もしくはCox=Ross=Ingersoll (CIR)型,リスクフリー・レートはVasicek型の正規分布を候補としている.相関がある場合,CDSプレミアムや国債金利を解析的に求められない.そこで有限差分法,有限要素法などの数値計算を用いて,CDSプレミアムと国債金利が従うべき偏微分方程式を解く計画である.既に数値計算技法の既存研究のレビューを開始しており,それらの計算技法の優劣について比較を継続しておこなう.次に採用された数値計算技法を適用して,最初に金利とそのボラティリティを基礎変数とするHestonモデルを対象に相関の影響を分析する.その後CDSプレミアムについて相関の影響を分析する予定である.Hestonモデルを最初に研究する理由は以下の通りである.第1にHestonモデルもCDS同様の2変数の微分方程式になるからである,第2にCDS評価ではfloating-legとfixed-legの2つのキャッシュフローについて,リスクフリー・レートとデフォルト強度の2変数に対する確率偏微分方程式を解く必要がある.しかしながら,floatingとfixed-legの両者に数値計算を適用することは非常に負荷が高いからである.数値計算技法の有効性を検討するため,簡単なモデルへの適用が実行可能性を高めると考える. また,ソブリンCDSプレミアムの予測モデルを完了しているが,その予測精度の改善を検討している.CDSプレミアムだけでなくマクロ経済変数を取り込むことや,パラメター推定をKalmanフィルターによる最尤法だけでなくベイジアン法を適用してモデルの有効性の向上を図る予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に合わせて,最適化計算ソフトの購入を次年度に先送りしたため,使用額が使用計画を下回った. 2019年度に最適化計算ソフトの購入費用として使用予定である.
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