研究課題/領域番号 |
18K01707
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
神楽岡 優昌 武蔵大学, 経済学部, 教授 (40328927)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | CDS / 有限差分法 / Fractional Step法 / 動径基底関数 |
研究実績の概要 |
CDSのスプレッドが満たす偏微分方程式は,時間に関して1次元,空間に関して2次元以上の多次元になる.具体的には空間次元はリスクフリー・レートとデフォルト強度に対応する.一般に多次元偏微分方程式は解析解をもたず,有限差分法に代表される数値解法が有効である.空間に関する交差微分項がない場合は有限差分法のなかでもAlternating Direction Implicit (ADI)法が有効と言われているが,交差微分項が存在する場合,ADI法が適用できないとの指摘がある. 2019年度は交差微分項が存在する場合に,第1にADI法が適用できるか検証すること,第2にADI法以外で計算時間の短縮および計算誤差の低減の点で優れた偏微分方程式の数値解法を開発することを目的とした.最初に,交差微分項がある場合,原理的にADI法が適用できないことを確認した. 次に交差微分項が存在する場合にも適用可能な数値計算技法の候補として,有限差分法の1つであるFractional Step法と2000年代に入ってからポピュラーになった動径基底関数を取り上げた.これらの手法の計算精度を評価するために,交換オプションのプレミアムを計算した.交換オプション・プレミアムが満たすべき偏微分方程式は交差微分項を持つものの,プレミアムの解析評価式が求められている稀なケースであり,ベンチマークとして適当である.様々なパラメターについて,交換オプションのプレミアムを求めたところ,Fractional Step法と動径基底関数の両方が,小さい計算誤差でプレミアムを算出することがわかった.計算時間については,離散化の分割数が小さい場合はFractional Step法と動径基底関数の両方で同程度の短い計算時間であったが,分割数が大きくなると動径基底関数の方がFractional Step法よりも計算時間を要することが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CDSプレミアムの予測モデルについては,2018年に国際コンファレンスITISE2018で発表した研究成果が査読を経て精選論文集への投稿を招聘された.そこで,研究結果を精緻化して投稿して,それが精選論文集に掲載された.したがって,予測モデル開発のサブプロジェクトは完了した. CDS評価の偏微分方程式の数値計算技法については,適用可能な手法をスクリーニングするための予備分析を完了している.リスクフリー・レートとデフォルト強度を基礎変数とするCDS評価モデルにおいて,CDSプレミアムは,リスクフリー・レートとデフォルト強度の2変数を空間次元,CDSの満期までの残存期間を時間次元とする多次元偏微分方程式の解として求められる.数値解法で障害となるのが,空間次元の2変数の交差微分項である.予備分析では解析評価式が導かれている交換オプションをベンチマークに採用して,プレミアムを求めたところ,交差微分項がある場合でも以下の2つの手法が適用可能であることを確認した.第1の方法は偏微分方程式を有限差分の代数方程式の系に変換する有限差分法の1つであるFractional Step法である.第2の方法は,偏微分方程式の解を動径基底関数の線形結合で表現し,係数を求めるものであり,動径基底関数とよばれる. Fractional Step法,動径基底関数の両者ともに,離散化の分割数が少なくても計算精度が高く,同時に,計算時間も短く,両者ともにCDSプレミアム評価への適用において問題が発生するとは考えにくい.たとえ障害が発生するとしても,原理的に異なる2つの計算手法の両方で問題が発生する確率は低いと推察する. なお,実証分析用のデータベースも2019年末までのCDSデータを入手し,使いやすいデータ構造に変換作業中である.
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今後の研究の推進方策 |
第1に既存研究のレビューにより,デフォルト強度をBlack & Karasinski (BK) タイプ,リスクフリー・レートをCox, Ingersoll & Ross (CIR) タイプもしくはVasicek (V) とすることが,有望であることが確認された.デフォルト強度をBK,リスクフリー・レートをCIRあるいはVとするときの偏微分方程式を導出する. 第2にBKと,CIRもしくはVのモデル・パラメターを適当に固定して,CDSプレミアムをもとめるプログラミングをおこなう.数値計算技法は,Fractional Step法,動径基底関数の両方を並行して開発し,計算結果を比較・検討することにより,数値計算誤差の最小化を図る.更なるチェックとして,デフォルト強度のBKに基づく確率過程の生成,リスクフリー・レートのCIRもしくはVに基づく確率過程を生成をおこない,モンテカルロ・シミュレーションにより,CDSプレミアムを算出して,比較・検討する. 第3に,BK,CIR,Vのモデル・パラメターを定数として,CDSプレミアムのヒストリカル・データから最尤法により,キャリブレーションする.既存研究ではリスクフリー・レートを非確率的とし,デフォルト強度のみをキャリブレーションしており,計算負荷の増大が予想される.しかしながら,Fractional Step法,動径基底関数ともに離散化の分割数が小さくても計算誤差が少ないことが確認されており,計算負荷は制御可能と推察する. 第4に,キャリブレーションにより求められたパラメターの中でもデフォルト強度とリスクフリー・レートの相関パラメターに注目して,相関パラメターを変化させたときのCDSプレミアムの感応度分析をおこなう.既存研究では,相関パラメターを実証結果の裏付けなしにゼロにおいており,相関パラメターの影響を定量的に分析する初めての研究になる.
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次年度使用額が生じた理由 |
国際コンファレンスITISE2019での研究発表を予定していたが,国際コンファレンスの開催日が学内公務の行事と重なった.そこで国際コンファレンスの参加を見送ったため,次年度使用額が生じた.2020年に国際コンファレンスへの出席,フランスの研究協力者との打ち合わせなどで,出張旅費の一部として使用する予定である.
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