2020年度は2つの研究フェーズからなる.第1フェーズでは空間2次元の確率偏微分方程式が交差微分項を持つ場合の数値解法の開発と評価をおこなった.ベンチマークとして,解析解が求められているMargrabe(1978)の交換オプションのプレミアムをFractional Step Methods (FSM)とRadial Basis Functions の2通りの数値計算手法を適用し,計算精度と計算時間を分析した.その結果,両方の手法ともに高い計算精度で解を求めることができるが,FSMの方が短時間で計算することが明らかにされた. 第2フェーズでは,ソブリンCDSの通貨によって異なるプレミアムを説明するモデル化を試みた.一般にソブリンCDSのプレミアムは他国通貨建てのクォートが,自国通貨建てのそれよりも高い.既存研究は対象ソブリンのデフォルトに伴う,自国通貨の価値低減で説明しようと試みているが,コンセンサスを得るまで至っていない.本研究では,リスクフリー・レートとデフォルト強度の相関によって,プレミアム差を説明できるか分析した.具体的には,リスクフリー・レートがVasicek型,デフォルト強度が指数Vasicek型の確率過程にそれぞれ従い,さらに確率過程間に相関があるとモデル化した.そして,ソブリンCDSと国債の2つの確率過程と相関のパラメターを,ソブリン危機後顕在化した,ソブリンのデフォルト・リスクが高い水準で継続した2012年5月のマーケット・データにキャリブレートして求めた.CDSの理論プレミアムは,リスクフリー・レートとデフォルト強度の間の相関を導入し,FSMを適用して求めた.実証分析結果は,リスクフリー・レートとデフォルト強度の間の相関が,異なる通貨建てでクォートされたCDSプレミアム差を部分的に説明できるものの,それだけではプレミアム差を説明できないことが明らかにされた.
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