2つの視点から研究を実施した。(1)新型コロナウイルス感染の拡大懸念が強まった2020年3月に日銀が実施した臨時の国債買現先オペと国債買入れオペが金融市場に与えた影響を検証した。日銀は臨時の国債買現先オペを2020年3月2日、3日と2日連続で通知したが、金融機関の応札意欲は弱かった。1週間物と1カ月物の日本円TIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)がそれぞれ強含むことなく安定的に推移したことも、調達意欲の弱さを裏付ける。予定を変更して3月16日に1日で開催された金融政策決定会合で、一層潤沢な資金供給や企業金融支援のための措置などを中心とする金融緩和の強化を決定した。日銀の流動性供給策や市場安定化策に加えて海外中央銀行の緩和政策などを背景に、国債や外国為替、株式、CDS(Credit Default Swap)などの市場は大きな混乱はなく、概ね安定化の方向に向かった。 (2) 日銀がマイナス金利政策を導入していた時期(2019年1月の同政策導入から2016年9月のイールドカーブコントロール政策導入まで)において、2年物から10年物のすべてのゾーンでは国債市場と金利スワップ市場で分断現象が生じていた。しかし、2016年9月に日銀がイールドカーブコントロール政策を導入後には、国債市場と金利スワップ市場での分断現象は7年と10年のゾーンにおいてのみ観測された。日銀がイールドカーブコントロール政策を導入してからは、国債市場と金利スワップ市場は2年から5年のゾーンで共変動しており、この2つの市場間では中長期金利を形成していた。イールドカーブコントロール政策により、長期金利がより多くの変動率を有しプラスのゾーンで推移したことで、市場機能が回復したと考えられる。
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