研究課題/領域番号 |
18K01712
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宇野 淳 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 教授 (00349218)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国債レポ市場 / 国債の希少性 / 非伝統的金融政策 / 国債のスペシャルネス |
研究実績の概要 |
本年度は、国債レポ市場の詳細(イントラデ―)を用い、国債現物市場、債券先物市場の関連性を分析した。国債レポ市場のイントラデ―データを使った分析は、本邦初めての試みである。分析の焦点は「市場流動性」の変化に当て、日本銀行の量的・質的金融緩和政策(QQE)が与えた国債関連市場の流動性への影響を多面的に計測した。レポ市場の流動性をGC-SCスプレッドと買注文未約定額を用いて計測したところ、最も最近発行されたカレント債の流動性は、日銀の国債保有比率上昇とともに徐々に悪化し、2016年2月のマイナス金利政策導入以降、特に悪化したことが示された。また、国債現物市場の流動性は、海外・国内の需要が大きい年限で悪化している。先物市場では2016年秋のイールドカーブコントロール政策の実行後、約定件数が32%減少するなど市場のアクティビティに甚大な影響が観察されている。国債関連市場の流動性にはQQEの影響がみられることを、証券アナリストジャーナル2018年5月号掲載の論文にて報告した。 より具体的には、国債の市場流通量の激減の影響で、レポ取引における特定の国債の価格形成に影響がでていることを、特定国債のスペシャルネス(GC-SCスプレッドで計測)の要因分析を行ったところ、日銀保有率の高い銘柄ほどスペシャルネスが大きく、また、日銀の買入オペレーションの対象である銘柄のスペシャルネスは大きいことが示された。国債レポ取引は金融機関や証券会社の資金繰り調整行動や現物市場におけるマーケットメイク業務を支える機能を果たしているが、日本銀行による非伝統的金融政策の実行により、流通市場の売買に供される国債が大幅に減少しており、マーケットメイクや裁定取引に支障をきたす兆候が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で初めて利用する国債レポ市場のイントラデーデータの利用について理解を深め、レポ市場固有のデータの取り扱いについて習熟度を向上させることができた。これを本格的に活用した研究を進める準備が整ったと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年に実施した国債関係3市場の分析結果を踏まえて、2019年においては予定通り、国債レポ市場と国債希少性の関係を詳細に分析する。国債の希少性が高まることがレポ取引に与える影響を明らかにする。希少性は、取引に供される国債の数量が不足することを意味しており、レポ市場で取引を成立させるまでに要する時間が長くなることが予想される。また、マーケットメイクするディーラーにとっては、ポジションを手仕舞うための国債を手当する困難性が増大するため、ビッド・アスク・スプレッドの拡大が 予想される。スプレッドは特定の銘柄を対象とするレート(SC)レート)と銘柄を特定しないレート(GCレート)の差として計測する。これは個別債券の希少性を示すSpecialnessと呼ばれる指標である。2018年度においてはカレント債を対象に分析を行ったが、これを全銘柄を対象に拡大し、国債市場全体に与えた影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究補助者の経費を今年度のプロジェクト執行用に回すため、使用を控えたため。
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