本研究プロジェクトにおいて、中央銀行が実行する2つの政策、すなわち資産購入(large-scale asset purchases (LSAPs))と資産貸出が、サーチ制約がある日本国債市場においてそのようなインパクトを生じるかを究明した。 まず、中央銀行をレンダー(貸し手)として取り込んだ新しいサーチ理論モデル(a search-theoretic model)を構築し、資産貸出制度(securities lending facility (SLF))の効果について導出した。理論モデルから得た2つの予測について、日本国債のレポ電子取引プラットフォームから得られるイントラデーデータを使って検証した。 第1の結果は、 LSAPsはレポ市場の注文不均衡を増加させることを確認した。Threshold analysisの結果によれば、当該資産残高の0.18%を超える資産購入(サンプルの38.98%が該当する)は、レポ市場の売り手と買い手の注文不均衡を統計的に有意に高める影響があることが明らかになった。第2の結果は、中央銀行が設定するSLFレートはレポ市場のレート下限値に影響するという理論モデルと整合的な結果で、これはディーラーがレポ市場とSLFのどちらを使うかの意思決定に影響するためである。最後に、取引フリクションを具体的に示す新しい指標をイントラデーデータを使って計測し、LSAPとSLFがレポ市場における買い手・売り手間の交渉力に正反対の効果をもつことを確認した。 中央銀行が実行する金融政策としての資産購入は、市場流動性対策として実施する貸出制度と相互に相反するインパクトをもつものであり、制度設計においては、このバランスに十分注意する必要があることを示す結果である。
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