本来,2020年度が最終年度であったが,Covid-19感染拡大による影響よって,研究期間を1年延期して2021年度が最終年度となった。最終年度の主な研究実績として,辻村(2021)について述べる。 企業はアウトプットの需要と資本価格に対する不確実性に直面しており,その下で需要に応じて資本ストックの規模を変更する問題を考察した。企業の資本投資の分析では,多くの場合,資本への投資費用は全額埋没費用である場合について考察している。これに対して,本研究は,資本を他の企業あるいは中古市場に売却ができる場合について考察した。すなわち,資本投資は完全に不可逆ではなく部分的に不可逆である場合を考察した。資本ストックの規模を変更する際には,資本の購入額あるいは売却額に加えて,資本の変更水準とは独立な費用を考慮した。投資規模とは独立した費用の定式化については,Abel and Eberly (1998)を参考とした。こうした事業環境下で,企業がいつ・どれだけ資本ストックの規模を変更すれば良いかについて考察した。 企業の問題は,確率インパルス制御問題として定式化され,準変分不等式を用いて問題を解くことができる。本研究では,準変分不等式を示し,最適な投資規模変更政策を特徴付ける6つの閾値を用いて,資本規模を拡張する領域,資本規模を縮小する領域,資本規模を変更しない領域を定めた。ただし,6つの閾値については数値計算によって求める必要があり,これについては残された課題である。
|