本研究は、凋落する日本のエレクトロニクスのなかで一般電子部品産業だけが何故強い国際競争力をもっているかを解明することを目的に、第一に当該産業が国際優位をもつにいたったプロセスと要因、第二に競争優位の持続メカニズムを明らかにすることを目指した。その際、とくにイノベーション・システムと産業ダイナミズムを分析の焦点とすることとし、そのため一般電子部品の代表的な品種である電解コンデンサを事例に選定して具体的なメカニズムを追究した。 最終年度では、第一に全体を総括するための資料収集と分析にとりくみ、第二に積み残してきた高度成長期の製品イノベーションについての論文を完成させた。これで研究成果としては戦後復興期から高度成長期までの分析を終えることができ、第一の目的である、当該産業の国際優位の獲得のプロセスと要因については基本的な分析を完了した。そこで獲得した論点は、全体の資料収集、分析と照らし合わせるとそれ以降の歴史や現状についても説明力が高いと判断できるものであった。つまり、第二の目的についても基本的な見通しを得ることができた。具体的には、第一に、イノベーションの進展には機関間の関係が重要であったこと、第二に、技術形成では異なるインセンティブをもつ大手統合企業と関連企業が一部は対抗し一部は補完したので、革新速度があがったこと、第三に技術進歩は累積的な性格が強かったから企業では経営資源の集中的投下が有利であったこと、などである。つまり、機関間関係の濃密さ、統合企業と社会的分業の発達の共存、専業的で技術革新志向型企業の台頭がイノベーションと産業ダイナミズムの枢要な構成要素であった。これらの論点は現状の優位の説明に基本的な見通しを与えるとともに、他産業のイノベーションと産業ダイナミズムの解明にも有力な視角を提供するものと考えられる。
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