研究課題/領域番号 |
18K01731
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柳生 智子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (40306866)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アメリカ南部 / 奴隷制 / 奴隷貿易 |
研究実績の概要 |
2021年度も前年に引き続き、新型コロナウィルスの感染拡大で研究計画は大幅な修正を迫られた。研究時間の大幅な縮小、海外への移動を伴う研究活動(学会参加、海外資料調査、共同研究者との交流等)の中止により、研究活動は制限された。2021年度の成果としてはまず『社会経済史学事典』に執筆した「奴隷制度」と「アメリカ南北戦争」の2項目が出版された。さらに、ノース・カロライナ大学歴史学部ピーター・コクラニス教授との共同執筆論文が海外ジャーナルに掲載が決定した。この論文は1735年から1775年までのチャールストンの商人層を取引品目(奴隷、鹿皮、一般商品)別に支払った関税額によって商人の集中度・独占度を計測した研究である。植民地期のアメリカ諸都市の商人層の分析、商人のネットワーク研究は近年関心が高く、今回の共同執筆における分析は新たな視角を提供できた。また、国内学術誌『アメリカ経済史研究』第17号に単著の論文が掲載された。この論文は関税資料の分析による鹿皮の取引商人層の考察に加え、鹿皮貿易が南部植民地経済を支える特色ある貿易であったことを詳細に分析した。特に内陸部への貿易圏の拡大、ネイティブ・アメリカンとの交渉は植民地政府、現地の商人やプランター、本国政府らの入念な戦略と緻密な関係の上に成立していたことなどを中心に論じている。学会報告としては、2021年7月に招待講演として、日本アメリカ史学会第51回例会で報告を行った。近年のアメリカ史研究では19世紀のアメリカの経済発展と奴隷制を結び付け、奴隷制の意義を強調したアメリカ型資本主義の発展を主張する論調が支持されているが、経済史研究者から批判されており、この両者の論点や対立の背景について、また今後の学会展望について報告した。この報告をまとめた論考も準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルス感染拡大による影響で、昨年度に続き2021度も研究の継続が難しい状況が続き、大幅な修正を迫られることになった。海外での調査や学会参加、研究者間の交流、共同研究の進展等が予定通りには進まず、結果的に申請時の経費は使いきれず、科研期間の延長を申し入れることになった。2022度も状況が悪化すれば海外・国内共に出張が制限され、研究計画や予算の消費について修正する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は最終年度として、この2年間の遅れを取り戻すべく計画的に研究を進めたい。まずは共著で進めてきた西洋経済史概説書がこの2年間、ほとんど進展が見られなかったので、この完成を目指す。さらに、植民地期に西インド諸島に多く輸出されたアメリカ南部のインディアン奴隷について、インディアン奴隷制とその発展、黒人奴隷制への影響についての論考を年内に学術誌に投稿する。同時並行して長く取り掛かっている植民地期チャールストンの奴隷貿易商人の大西洋ネットワークについての論考も2022年度中に国内の学術誌に投稿したいと考えている。さらに、学会発表は既に2022年5月に国内学会での招待講演(コメンテイター)が1点決定しており、その後も年内に複数の国内学会に参加・報告予定である。海外への調査や学会報告はコロナ禍の拡大状況を見極めながらの判断になるが、年度内に状況が改善すれば積極的に検討したい。ハイブリッド型の国際学会であれば、オンラインでの参加も考えている。また、本科研の最終成果として、国内の出版社に植民地期から独立期にかけてのサウス・カロライナ社会と奴隷制・大西洋貿易についての著作について企画を提出し、契約できるまで進められたらと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの拡大で、海外・国内での学会参加や資料調査、研究交流や打ち合わせもほぼ中止となり、オンラインでの開催に移行した。旅費にかかる予定であった予算は消費できず、物品の消費のみとなった。最終年度は出版にかかる諸費用などの計上が予定され、国内学会の参加が複数決定しており、出張費・参加費が計上される予定である。また、コロナ感染拡大状況を見ながら、海外への資料調査も検討している。
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