研究課題/領域番号 |
18K01733
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
本野 英一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (20183973)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地方審判庁 / 英中商事裁判 / 酌定華洋訴訟弁法 / 上海会審衙門 |
研究実績の概要 |
予定していたロンドン国立公文書館で行うはずであった、上海租界以外の土地で、自分たちと雇用取引もしくは共同出資経営関係を結んでいた華商・華人企業の名義を隠れ蓑にして、土地不動産の獲得経営を画策する在華イギリス企業に関する未公刊外交文書の写真撮影は、コロナウィルスによる新型肺炎流行のため、断念の止むなきに到った。 そこで研究計画を変更し、治外法権制度を自己の資産保護手段に利用する華商、華人企業の活動に対して在華西洋人社会がどのような反応をしていたかを明らかにすることに専念することにした。具体的には、上海共同租界内で、イギリス人・アメリカ人法律事務所の名義を用いて自らが所有する不動産を債権者からの追求逃れに利用する華商・華人企業を、上海のイギリス人当局がどのように扱っていたのかを研究することにした。これは、1908年から1917年にかけての時期については、論文にまとめることができ、『歴史と経済』に掲載が決定した。 次に、上海租界以外の開港場で起きていた、在華イギリス企業の資産を、自らの資産獲得、保護手段に利用しようとする華商、華人企業と、そうさせまいとするイギリスを筆頭とする西洋諸国側の対応については、1908年に開設された天津地方審判庁を皮切りに、この年から1926年にかけて山東省、四川省、江西省、福建省、湖北省で、自分たちとの取引契約を履行せず、自分たちの資産を食い物にしようとする華商・華人企業からその資産を差し押さえ、債権を回収しようとして、在華イギリス企業が華商・華人企業を相手どって起こした商事裁判を、誰がどのように処理していたのかという問題に収斂させ、今年4月30日に神奈川大学・横浜国立大学が共同会場となった社会経済史学会第91回自由論題報告として報告した。本年の研究活動は以上である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス流行による海外渡航制限により、当初予定していたロンドン取材出張を断念せざるを得なくなったため、上海租界以外の土地で、自分たちと雇用取引関係、あるいは共同経営関係にある華商・華人企業の名義を隠れ蓑にして、様々な経済活動、とりわけ鉄道敷設や鉱山開発に必要な土地の購入を行う在華イギリス企業の活動を記した未公刊外交文書、同じく在華イギリス企業の名義を隠れ蓑にして、本来なら在華外国企業のみが享受することを許されていた釐金税納入免除特権を利用する華商・華人企業の活動を記した未公刊外交文書の撮影入手を断念せざるを得なくなったため。 もう一つは、『歴史と経済』に掲載許可になった論文は、本来『史学雑誌』に投稿したのであるが、内容に不備が多かったため、編集委員会から掲載不許可を言い渡され、これを構想を新たに全面的に書き直し、『歴史と経済』に投稿するために大幅に時間をとられたことによる。
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今後の研究の推進方策 |
今年は、まず社会経済史学会第91回全国大会で自由論題として報告した内容を英文論文にまとめて、海外の査読雑誌に投稿するのと同時に、2020年6月、京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センター村上研究班で行った報告を、同じく英文論文にしてこれも別な海外査読雑誌に投稿する予定。前者は1908年から1926年に在華イギリス企業が自分たちとの取引契約を履行せず、逆に自分たちの資産を食い物にする華商・華人企業を相手取った債権回収訴訟の判決がなぜ執行されなかったのかを扱い、後者は1918年から1927年までの時期に起きていた在華アメリカ企業が、同じく華商・華人企業との間で起こしていた債権回収訴訟、あるいは上海会審公廨を悪用して中国人政治家の資産を強引に奪い取ろうとした訴訟の挫折を扱って、華商・華人企業を自らが中国で行っていた経済活動の危険負担回避手段に利用しようとする試みが全て挫折するまでを明らかにすることを目標としている。 そして、この研究の最後として、会審公廨が国民党政府に返還され、上海臨時法院に再編成されてから、イギリスやアメリカの国立公文書館に残る関係記録がなくなる1937年までの間の時期に、一体何が起きていたのかを記した文書を読み終え、この研究を終えることを方針としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス流行による海外渡航制限によって、本来予定していたロンドンでの取材出張を断念せざるを得なくなったため。
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