研究課題/領域番号 |
18K01736
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
本内 直樹 中部大学, 人文学部, 准教授 (10454365)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 第二次世界大戦 / イギリス / 社会主義 / G.D.H. コール / オックスフォード大学 / 戦後再建・復興 / 福祉国家 |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次大戦期にイギリスの社会科学者が戦後再建に向けて実施した社会調査活動と、明らかにされた「社会史的事実」をめぐる認識と解釈が戦後の政策立案過程において政治家・閣僚・専門家らの議論の中でどのように変容し、労働党政権の戦後再建政策・福祉国家制度にどのように反映されていったのか実証的に検証するものである。本年度は、オックスフォード大学の政治経済学者G.D.H.コールの主宰する「ナフィールド・コレッジ社会再建調査」(1941~45年)が戦後再建に果たした役割を明らかにするために、夏季と冬季に英国にて資料調査を行った。英国国立公文書館やナフィールド・コレッジ図書館、LSE図書館等にてコールの個人文書や社会調査の全貌を知る上での一次利用の存在を確認し複写した。中でも戦時下の教育問題を中心にコールの労働者教育に対する展望や教育制度の改革案、教育と産業の関連を重視した教育改革構想は、数編の報告書にまとめられ中央政府・教育庁に送付されていたことが判明した。これに対する教育庁の官僚たちの反応、1944年の教育白書にどの程度、反映されたのかについて検証を進めている。現時点で明らかになったことは、コールが全国から著名な教育専門家・経済学者・社会学者らを招聘し、教育と産業の再建を統合して考えていこうとした点に特徴を見出すことができ、戦後の教育再建についてのコンセンサスを形成することができた点でコールの教育調査は戦後の教育制度に一定程度の貢献を成し得たことが分かってきた。渡英の際には、イギリス人の歴史研究者ニック・テイラッソ教授やマーク・クラプソン教授から参考文献に関する有益なアドヴァイスを頂戴することができた。研究成果として、2018年12月に青山学院大学経済研究所のワークショップで報告を行った。また『三田学会雑誌』111巻2号(2018年7月)に研究協力者との共著論文を公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)イギリスの戦後史、具体的には、第二次大戦期の教育史、社会史、政治史、経済史、社会主義に関する思想史関連を中心に英文・邦文の先行研究を調査し、論点を整理した。(2)英国に資料調査へ2回赴いた。今年度も社会主義者G.D.H.コールとナフィールド・コレッジ社会再建調査(1941~45年)を研究対象とし、夏季と冬季に英国資料調査を行った。英国オックスフォード大学ナフィールド・コレッジ図書館にてコールの個人文書、社会再建調査に関する膨大な一次利用、およびボードリアン図書館にて1941~1943年までの大学協議会の議事録などを可能な限り閲覧・複写した。また、英国国立公文書館にて教育庁の未公刊資料を閲覧・複写し、コールが政府へ提出した各種報告者が庁内でどのように議論されたのか調べた。現時点で明らかになったことは、戦時中、秘密裡に行われた私的会議Private Conferenceの議事録の分析から、コールが全国から著名な経済学者・社会学者らを招聘し、戦後の課題、地方政府、完全雇用、教育、社会サービスなどの議題が戦時中に自由に討論されていた事実であり、各論者の意見対立などが伺えた点である。特に本年度は教育問題に関する討議内容と報告書群の内容を整理することができた。しかしこの報告書群に対する官僚(教育庁)は賛否あり、調査にあたった労働者教育協会の講師陣に対するある種の偏見から一部の官僚からは批判的な評価も下されていたことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの資料調査と研究の成果として、第二次大戦下のイギリス教育調査とG.D.H.コールの教育再建調査に関する論考を刊行する(現在、準備中)。一方で継続的にコールと「ナフィールド・コレッジ社会再建調査」の実態分析を進め、次の各論テーマの産業と雇用の問題に取り組んでいく。これまでの概観的把握から今後は、各論(都市計画、完全雇用、社会サービス、教育、地方政府など)について順次テーマを絞り、より詳細な戦後再建構想を個別テーマごとに明らかにし、戦後福祉国家の制度設計や戦後経済再建に社会主義者コールの社会調査の影響がどの程度あったのか、その意義と限界を検討する予定である。そのために、さらなる現地資料調査が必要と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額41,200円が残った理由は、2月~3月にかけてイギリスでの資料調査の際に使用した二次文献代(洋図書費)の清算が帰国後の3月中旬となり、学内の締め切りに間に合わなかったため、この分を次年度に使用する計画である。
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